シェルステン王家の密談
セリアは侍女が用意したリネンを見て、眉をひそめた。
わざわざ汚されたタオル。これでは、意識のないケイトリアの身体を拭くことも出来ない。このような事が頻繁で、もう慣れてしまった。侍女達が自らしているのか、命令されてしているのか、どちらにしろ自分達を疎ましく思っている者がいるということだ。
心当たりの人物もいる。
王子のチェイザレが得体の知れない母娘を王宮に滞在させているだけでなく、王太子の態度を快く思わない者がいるのは、当然であろう。
忙しいチェイザレ達の手を煩わせたくはないが、これではケイトリアに処方されている薬も信用できない。
セリアはチェイザレに報告したいが、使用人達に見つけられて騒がれるのは嫌なので、チェイザレに用意してもらった地味なドレスを着て部屋を出た。
少し俯き加減で汚れたタオルを持って歩けば、顔を見られることもない。
チェイザレの部屋に向かったつもりが、王宮の中で道に迷ってしまったらしい。見覚えのない場所に戸惑っていると、前から数人の侍女達が話ながら歩いて来るのを見て、セリアは手近な部屋に隠れた。
そこは空き部屋だが、壁一面に肖像画がかけられており、王家の私室の一室かも知れない。思わずそのうちの何枚かを魅入ってしまう。
ガチャ。
扉が開かれる音がして、セリアは慌てて家具の後ろに隠れる。
入って来たのが誰かは分からないが、一人ではないようだ。
「しばらく誰も近づかないよう指示してあります」
聞き覚えのある声は、王太子ライデンの声である。
「チェイザレに知られると、やっかいだからな」
もう一人は王だ。
「チェイザレはいいものを持って帰ってくれた」
「すでにガイザーン帝国には、レプセント夫人と娘を保護している旨の手紙を送ってありますが、どのように返信がくるでしょうね?」
「ガイザーン帝国がレプセント軍に援軍を出したのも、夫人の存在が大きいだろう。
実際には我が国にいるのだから、我が国が一番有利なのは間違いない」
王が薄ら笑いをしている声が聞こえて、セリアは身体を固くした。
「セリアを私が娶れば、ガイザーン帝国と縁続きになります。
レプセント侯子が戦死すれば、レプセント領はセリアのものだ。そうすれば、魔獣生息地帯ごとレプセント領が手に入る、しかも魔獣討伐のできるレプセント軍もだ」
「セリア嬢はチェイザレより、お前の方が有効に使えるだろう。
だが、まずレプセント軍とイグデニエル王国軍が相打ちになってもらわねばならない」
王と王太子の話は続くが、声が小さく、セリアが隠れている場所では聞き取れない。
ところどころ聞こえる言葉から、イグデニエル王国と近隣小国を巻き込んで滅ぼし、ガイザーン帝国と分割して統治するように画策しているようだ。
誰にも聞かれないで、文書を残さない密談ということで、ここで話をしているらしい。
多分二人は、過去にもこういうことをしていたのだろう。
早く部屋から出て行って欲しい、見つからないように息を殺して、セリアは指一つ動かさない。
とても長く感じた時間は、実際には短い時間だろう。
王と王太子は、周りに不信感を抱かせることない時間で、不穏な会話を終了させねばならないからだ。
二人は時間をずらして部屋から出て行く。
誰もいなくなったのを確認して、セリアはよろけながら立ち上がる。
早く部屋に戻らねばならない。
だが、元々迷っていたのだ。自分達の部屋がどこにあるか分からない。
結局、慣れない王宮でまた迷ってしまった。
「おや、セリア嬢、どうされました?」
セリアを見つけたのは、側近達を引き連れて歩いている王太子だ。
あんな話を聞いた後では、セリアは動悸がしてきて、声の震えを隠すので精一杯だ。
「申し訳ありません、迷ったみたいで」
「それは?」
ライデンがセリアの持っているタオルに手を延ばしてきて取り上げた。
「部屋に用意されていたのがそれしかなく、洗濯をしてあるものに変えてもらろうと部屋を出たのですが・・」
セリアの言葉を受けて、ライデンはタオルを広げて顔を歪た。
「つまり、部屋に侍女は控えてなく、汚れたタオルを用意されて、探すうちに迷ったという事ですね。
こんなに怯えて、可哀そうに。
申し訳ない事をしたね。私が対処するから安心しなさい。部屋におくろう」
ライデンは、セリアが震えているのは、侍女に意地悪をされ、道に迷って心細くなっているのだと判断したようだった。
ライデンは側近の一人にタオルを渡すと、セリアをエスコートする為に腕を差し出した。
セリアはライデンの腕に、震える手を添える。
「セリア嬢は可愛いね」
楽しそうにライデンが言うのを、セリアは手に力を込めて聞いていた。




