王妃の配慮
セリアの噂は、瞬く間に広がった。
第2王子チェイザレが他国から連れてきた、身分も怪しい女。
王太子妃からお茶の誘いを、セリアが断ったことにより、さらに悪意を持った噂は広まっていく。
傲慢で教養もない女。
セリアにとっては、兄が兵を挙げ、イグデニエル王国軍と戦っているのに、お茶会になど出席する精神状態ではない。
ケイトリアの意識は戻らず、少しでも側にいたいのだが、セリアの事情を公表するわけにもいかず、王太子妃の誘いを断ったということだけがクローズアップされる。
チェイザレが各国を回って情報を集めてきた報告をするのに、王、王太子、チェイザレ、ルドルフの内密の会議が続いた。
イグデニエル王国での内乱は、大きな問題である。
それに動き出したのは、ガイザーン帝国だけではない。イグデニエル王国に隣接するオプテマ王国の動きも怪しいのだ。
オプテマ王国は小国であるが、イグデニエル王国が内乱で弱った時期を狙って進軍してくる可能性が高いのだ。そして、オプテマ王国は国内で麻薬を生産している疑いがある。
レプセント軍にガイザーン帝国軍が合流した情報が届くと、イグデニエル王国軍の劣勢が顕著になるが、オプテマ王国をはじめとした近隣諸国がイグデニエル王国を取り込んで、対峙するとそれは内乱とは言えなくなる。
セリアを匿っているシェルステン王国には、レプセント軍を支援する方向で話を続けているが、援軍を送るのは国境を接していないので無理である。
男達が会議の間に、セリアの部屋を訪ねてきたのは、王妃である。
セリアを挟んでのチェイザレと王太子の様相に好意を持てなかったが、国の関係を考えれば無下にできないと判断したのだ。
ましてや、母親を抱えて逃げてきたのは健気である。
「夫人の様子はいかがですか?」
王妃は、まずケイトリアの状態を確認する。
「医師にも、いつ意識が戻るか不明だと言われてますが、手厚い介護を受け、顔色も良くなってます」
セリアは、ここで侍女達が交代で介護をしてくれるお礼を述べる。全て王家の手配であるからだ。
王妃はセリアを見つめ、王太子妃のことを思う。
セリアの方がずっと若いのに、迫力があると思う。
これが、セリアが修羅場を掻い潜ってきたということだろう。
国を思えば、ガイザーン帝国と敵対するのは危険すぎる。
「いろいろ噂がでているのを気にしてはいけませんよ」
王妃は、セリアを慰めるように肩に手を置いた。
しっかりしていても、母親をかかえて異国に一人なのだ。頼りのチェイザレは、留守がちとなれば、心細いに違いないと王妃は思う。
まだ、17歳の少女なのだ。
「ありがとうございます」
セリアは王妃からの優しい言葉に、嬉しさが込み上げてくる。
セリアは噂を払拭する方法もわからず、困っていただけに余計である。
父と姉の冤罪、国から逃げて、母を守らねばすぐに壊れそうで、心細かった。
ポトリと涙が落ちる。
セリアの頬を涙が伝うと、王妃の母性本能がくすぐられ、セリアを可愛いと思ってしまう。
セリアの悪い噂の出どころは王太子妃である。
王族といえど、嫁姑の問題は微妙である。




