チェイザレの家族との顔合わせ
「だが」
王は言葉を止める。
「レプセント、その名は、謀反で兵を挙げた一族の名だ」
イグデニエル国内での情報を掴んでいるのは当然であろう。
セリアは背筋を伸ばして、手に力を込めた。
「王家に反発するのを謀反というのなら、そうでしょう。
婚約者である姉を側妃とし恋人の男爵令嬢を正妃にする、と言った王太子と婚約解消するべく登城した父と姉を拘束した王家に対して、兄は父と姉を助けるべく蜂起しました。
私は兄を誇りに思い、なんら恥じる事はありません」
そのセリアに魅入っているのは、チェイザレだけではない。王太子もセリアから視線を動かせない。
「私を拘束しても理解できます。けれど、イグデニエル王家に引き渡すのは、全てが終わってからにしていたけませんか?
兄の足かせにならないように逃げてきたのです。私がイグデニエル王家の人質になれば、兄は私も助けようとするはずですから」
セリアの覚悟に、王太子の瞳が細められるのを、チェイザレは見逃さない。敵意を込めたように兄の王太子を睨む。
王は息子二人の様子を見てから王妃を見たが、王妃も気がついているようだ。
「ライデン、お前には妃がいるだろう」
王にライデンと呼ばれた王太子は、苦笑いをしたが否定はしない。
「こんなに魅力的な令嬢は初めてだ。チェイザレが落ちるのもわかる。
美しく、強く、賢い」
王太子の言葉に王は面白そうだったが、チェイザレと王妃は警戒を強める。
だが、当の本人のセリアは可笑しそうに笑った。
「美しいなんて、元気付けようとしてくださったのですね。ありがとうございます」
「セリアは美しい!何度も言っているじゃないか」
チェイザレが強く言うが、セリアは曖昧に笑ったままである。
「だって、我が家にはとんでもない美人の母と姉がいるから、あれを見慣れると・・」
セリアは自分を卑下しているのではないが、現実を知っている。
イグデニエル王国では、母は滅多に社交界にでなかったが、姉はたくさんの貴公子を虜にしていた。
ガイザーン帝国に行った時には、皇太子が姉に一目惚れする現場にも居合わせた。
「ほう、そこまで言わせる姉君にもお会いしたいものだ。だが、セリア嬢、そなたの魅力は美しさだけではないぞ。
ああ、チェイザレ、そんなに睨むな。私には妃がいるからな」
ライデンが両手を挙げて、参ったとばかりにセリアにウィンクをする。
セリアの感想は、やっぱりこの弟の兄だわ、だったが、チェイザレはそうではなかったらしい。
「兄貴、外へ出ろ! 決闘だ。セリアは俺の押しかけ妻だ」
セリアが飛びついて、チェイザレの口を両手で塞ぐ。押しかけ妻とバラすなんて、デリカシーがなさすぎる。
「仲がいいな」
そう言うライデンの表情は、王太子としての表情だった。さっきまでチェイザレをからかっていたのとは違う。
もしかして、王太子妃との仲はいいとは言えないのかもしれない、とセリアは思ったが、これ以上首を突っ込みたくない。
気がつかない振りをして、チェイザレの隣に座り直す。
「セリア嬢を拘束する事などしない。息子の婚約者として扱うので安心するがいい。
母君も安静にすごせるよう手配しよう」
王がそう言って席を立つと、王妃と王太子がそれに続く。
3人がサロンから出て行くと、セリアは溜息をついた。
緊張していたと、今になって自覚する。
チェイザレの手が伸びてきて、セリアの肩を抱き寄せるのが心地よい。
だが、このサロンの話は王太子妃の知る事となり、セリアは第2王子だけでなく、王太子にも色目を使う女と言われるようになる。




