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夕陽が沈む国のレプセント  作者: violet
セリア・レプセント
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国境を越えて

ケイトリアは馬車の中で目が覚める様子はなかった。

魔核で傷は癒せたが、出血が多すぎたのと、魔核の後遺症で深い眠りについたままだ。セリアが眠っているケイトリアに、少しずつ水やジュースを飲ませて衰弱がひどくなるのを防いでいる。


馬車は途中の町で馬を買い替え、ルドルフとチェイザレが交代で馬を走らせる。

少しでも早く国境を越えたい、イグニデル国内では医者に診せる事が出来ないのだ。医者によって足止めをされ、軍に報告される可能性があるからだ。


2日かかって国境の町に着いた時は、国から逃げ出そうとする人で(あふ)れていた。

だが、ここでは国境を出るより、国境で受け入れを拒否されているために国境が進まない状態だった。

イグデニエル王国の内戦による難民の流入を止められているのだ。

こうなると、ここまで来た人々の不満が募り、暴動も起こっていた。イグデニエル王国の国境警備隊は治安維持に重点をおき、国境は隣国ノイエセン王国の警備隊が受け入れずに追い返す状態になっている。

つまり、イグデニエル王国側の国境は手薄になっているのだ。


ルドルフが馬車から降り、ノイエセン王国の警備隊と交渉を始めると、程なく馬車は国境を超えることが出来た。

イグデニエル王国の国境警備隊が慌てて駆け寄ってきたが、すでに国境を越え、ノイエセン王国の警護を受けている状態だった。


「待て! その馬車を検問なしに通すことは出来ない!」

国境警備兵が詰め寄るも、ノイエセン側の返答は簡潔であった。

「近隣諸国より、自国の商人や貴族の保護を申請されている。そのうちの一人と確認できた為に、我が国で保護をする」


すでに国境を越えているので、イグデニエル国境警備隊も強くは言わない。この馬車以外も、他国の商団の馬車隊なども国境を越えているからだ。

しかも、馬車が国境を超えたのを見て人々が殺到したのを対応せざるを得ないので、それどころではなくなった。



「セリア、国境を越えた。次の町で医者を探すから、馬車をとばすぞ。しっかりつかまっててくれ」

チェイザレが馭者台側の窓を叩いて、セリアに告げる。

医者が診ても期待はできないが、栄養剤の調合をしてくれるだろう。

国境の街で、かなりの時間を費やした。その遅れを取り戻すかのように、馬車はスピードをあげる。


辿り着いた街で宿を取り、医者の診察を受ける間に、ルドルフは馬車の馬を買い替える。

チェイザレは医者に金を渡して口外しないことを誓約させようと思ったが、自分達が街から離れたら役に立たない誓約だろうし、ケイトリアは眠ったままで瞳の色も医者は知ることはない。

レプセント家の家人だと証明するほどのものはないだろう。

イグデニエルからケガをして逃げてきた美人は珍しい事ではない。それだけで口止めするのは、かえって怪しませると判断して、口止めはしなかった。

栄養剤さえ手に入ればいいのだ。本格的な治療は、シェルステン王国に着いてからだ。

ノイエセン王国を通過すれば、シェルステン王国に入る。


チェイザレは医者が帰ったあと、セリアとケイトリアがいる部屋に行く。

ずっと馬車の中だったから、栄養剤を飲んで宿のベッドで眠るケイトリアの呼吸は落ち着いている。


「セリア、このままシェルステン王国まで強行する。

それでだ、シェルステン王国では俺の家に滞在しないか?」

チェイザレの申し出は、セリアとケイトリアにとっては願ってもないことだが、そこまで甘えていいものかとセリアは思ってしまう。


「チェイザレは結婚しているの?」

家に押しかけて、家族に迷惑かけるのは申し訳ないと、気になっていることを聞く。

「いや、していない」

チェイザレの返答に、セリアは嬉しく思う自分に気がついている。


「恋人や婚約者は?」

「いや、いない」

セリアもチェイザレも、だんだん恥ずかしくなってくる。


「じゃ、私が押しかけ奥さんになってもいいのね?」

「ダメだろう!」


部屋から聞こえてくる声に、出発を呼びに来たルドルフは息を潜める。


「どうしてダメなの? 私達が迷惑をかけているのはわかっているけど、私を嫌いじゃないから家に呼んでくれたのでしょう?」

「いくつ違うと思っているんだ? 俺は女の子が好きそうな貴公子じゃないのは分かっている。助けてくれたと負担に思っているのは、気にしなくっていい」


「私は17歳よ。チェイザレが30歳でも、貴公子でなくてもチェイザレがいいの」

「俺は25歳だ!」


隠れて聞いていたルドルフは、チェイザレの負けだな、出発は30分後でいいか、と確信して部屋から遠ざかる。

良かったな、嫁ができたな、国に帰ったら大騒ぎになるな、と苦笑いを浮かべた。


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