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夕陽が沈む国のレプセント  作者: violet
モードリン・レプセント
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縁戚

ユージェニー・レプセントは、アンセルム皇太子がモードリンに興味を持ったのを感じていたが、今更である。母親似のモードリンは男性からよくもてていたからだ。

モードリンは見かけと違い、とても行動的である。辺境侯爵令嬢として、魔獣の討伐に出陣する騎士達をみているのだから仕方のない事だろう、下の妹のセリアも同じだ。


「レプセント公子、剣の腕前の噂は聞いている。

明後日、狩りにいかないか?」

アンセルムは、モードリンからユージェニーに視線を移して手を差し出した。

ユージェニーはアンセルムより2歳上だが、それよりも鍛え抜かれた体格が目に入る。レプセント領の騎士は、魔獣討伐で並外れた体力だ。


ユージュニーは口角をあげて笑みを浮かべると、

「では、妹達も同行してよろしいでしょうか?」


ユージュニーの言葉に皇帝もアンセルムも、表情を変える。

貴族の令嬢が狩りに行くなど、ガイザーンではありえないからだ。


「私も最初は驚いたわ。レプセントでは、魔獣の危機があるので、逃げる為に馬術を習うのですわ。

それに、女性が馬術や武術を身に付けるのを止めません」

魔獣の危機だけではない、レプセントは豊かな領地であるから盗賊や、魔核を巡る近隣領地との摩擦もあると、ケイトリアは暗に示す。


「君も馬に乗るのか?」

皇帝はケイトリアに尋ねる。ガイザーンにいた頃のケイトリアは、貴婦人の中の貴婦人であった。

その従妹を、魔獣の住む地へと嫁がせたのだ。

「乗れますが、上手にはなれませんでした」

政略結婚であってもケイトリアは夫と愛情を育てて、レプセント家に馴染もうと努力したのだが、馬には馴染めなかった。クスッ、と笑うケイトリアが返事を返す。

「今までに一度も、そのような事になったことはありませんわ。レプセント騎士団は、街に魔獣を近づけるような事はしません」


「そうか、幸せに暮らしているのだな」

皇帝はそういうと、眩しそうに目を細めた。




狩りは、皇家の狩場で行われた。

朝から、獣の追い込みがされていたらしく、猟犬の声が森の中から聞こえていた。


モードリンは兄のユージェニー、妹のセリアと共に騎乗で狩り場についた。

すでにアンセルムは来ていて、モードリンの横に馬を寄せてくる。

「おはよう、今日が待ち遠かったよ。

乗馬服もよく似合っている」


モードリンの艶のある髪は結い上げ、男性の乗馬服をアレンジしたドレスを着用している。

「おはようございます、殿下。

お天気に恵まれて、今日はいい獲物が狩れそうですね」

モードリンは、アンセルムと馬を並べて歩む。


「お兄様」

ユージェニーに声をかけてきたのは、セリアである。

「わかっている」

セリアに全てを言わせずに、ユージェニーは返事した。

アンセルムはガイザーンの王太子、バカな事はしないだろうと、ユージェニーは思っている。

モードリンは、自国の王太子の婚約者。絶対に結ばれない相手なのだ。


狩りが始まると、モードリンはアンセルムと行動を共にした。もちろん護衛が付くので、二人きりではない。

それでも、アンセルムの視線を感じる。

年頃の令嬢として、若い男性から視線を向けられる事は多い。

だが、アンセルムの視線にはドキドキする。

これはイケナイ事だ。自分には婚約者がいる、とモードリンは自責する。


「ハィ!」

モードリンは馬の手綱を強く引くと、馬はスピードを上げる。

アンセルムと護衛達は、モードリンを追うように馬の腹を蹴り速度を上げた。


モードリンは狩りをすることなく、森深くに入り、小川に着くと馬を止めて降りた。

木に馬を繋ぐと、同じ木にアンセルムも馬を繋ぐ。

「殿下は、狩りをされなくていいのですか?」

モードリンは乗馬は好きだが、狩りは得意ではない。


「モードリン嬢こそ、いいのか?」

アンセルムが反対に聞いてくる。


「どうかモードリンとお呼びください。

再従兄妹(はとこ)になるのですから。」

モードリンが微笑めば、アンセルムの頬が赤らむのは、モードリンの気の所為ではない。


「では、モードリン」


「はい」


二人はそれから言葉を交わすことなく、小川を見つめた。

決してお互いを見ないのに、そこにいるのを感じていた。


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