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夕陽が沈む国のレプセント  作者: violet
セリア・レプセント
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イグデニエル王都からの脱出

ルドルフはどこから手配したのか、1台の馬車を館の前に停めた。

街中から人が逃げ出している今、馬車を手に入れるのがどんなに難しいかは、セリアにだって分かっている。


「すぐに乗って」

ルドルフは長くは停められないとばかりに、()き立てる。


食事を取り一晩寝たケイトリアの顔色はかなり良くなっている。また王都に戻って来たのはずいぶん迂回したことになるが、あのまま強行しなくてよかった、とセリアは思っていた。

きっと母は国境をこえられなかったろう。


チェイザレがケイトリアとセリアに手を貸し、馬車に乗せる。

それは女性をエスコートするのが身に付いた者の仕草である。やはり、他国の高位貴族に間違いないと、セリアは確信した。


チェイザレは外から扉を閉めると、御者台のアドルフの隣に座ると馬に鞭打つ。

レプセント軍と王国軍が近くで戦闘になっているので、王都から逃げ出す人々、隠れようとする人々、迎え撃つ王国軍で王都中が喧噪に包まれていて、昨夜までレプセント辺境侯爵の遺体が晒されていた広場は、兵士で埋め尽くされていた。


セリアを乗せた馬車は人々に紛れて王都から脱出の予定だったが、出口の検問が強化されていた。馬車は止まって検問の順番待ちをせねばならない。

昨夜の広間の襲撃で、レプセント軍が侵入していると判断されたらしい。


セリアは馬車の窓から、そっと覗いて驚いた。

指揮をしているのは、軍馬に乗った王太子エルモンドだ。姉の婚約者として何度も会ったのだ、あの顔を間違うはずがない。

「チェイザレ、王太子殿下がいます」

セリアは、エルモンドがいるのとは反対側の窓から顔を出してチェイザレに伝える。

「わかった」

チェイザレは袋を持って馬車から降りると、検問待ちの人の列に入り込んだ。

袋から生臭い臭いがして、人々が裂けて隙間ができる。袋を空に向けて投げると、開いた袋の口から、大量の生肉が巻き散らばって落ちてくる。


「うわぁ!」

生肉が落ちてきた所に、空からカラスの大軍が急襲してくる。

カラスは生肉だけでなく、人間にも攻撃をしだした。検問待ちの人々だけでなく、兵士達もカラスの襲撃を受けている。


「なんだ! このカラスは速すぎる!」

兵士達がカラスを斬ろうとしても、カラスのスピードが速過ぎてかすることもできない。


ガイザーン帝国が鳥に魔核の混じった餌で調教し、スピードと感知能力を高めたことと同じことがおこっているのだ。

レプセント辺境侯爵の血肉を食べたカラスの能力が格段に向上している。

頑丈な王宮の牢を逃げ出すことが出来き、深手を負いながらも戦えたのも、レプセント辺境侯爵が魔核を摂取して戦闘力と生命力を強化していたからだ。

チェイザレはガイザーン帝国の魔核実験を知っているわけではないが、結果として同じことが起きている。

チェイザレとルドルフは、レプセント辺境侯爵の血肉で人間の味を覚えたカラスは、他の人間をも襲うだろうと考え、それを利用して混乱を起こそうとしたのだ。


カラスの急襲に人々は逃げまどい、我先に検問を無視して門を超えて行くが、兵士達もカラスの襲撃を受けていて人々を押し停められない。

チェイザレは馬車に戻ると、セリアとケイトリアの手を引き人々に交じって検問を超える。

その瞬間、セリアはカラスに襲撃されているエルモンドを見た。訓練された軍馬といえど、カラスに興奮してエルモンドを振り落とさんばかりに暴れている。

エルモンドが何か叫んでいるが、人々の怒声にかき消される。


思い知るがいい。


父の屈辱を忘れはしない。



王都を出てからしばらく隠れていると、空の馬車で検問を通過したルドルフと合流した。もう一度、国境に向かう。

王都はこれから戦場になるかもしれない。


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