王都への帰還
街で古着を買った時に、食料や毛布も買い足したおかげで、森の中でも不便はなかった。
ただし、火を起こすことはできないので、干し肉を食べ、毛布に包まって暖を取った。
セリアとケイトリアに疲れがでていることは、チェイザレとルドルフには見て取れた。特にケイトリアは歩くのもやっとの状態だ。
夜であっても、追手が無くなる訳ではない。闇に紛れて近づくかもしれないのだ。二人は緊張を解かないで、小さな声で話していた。
「山越えは無理だろう。国境警備兵はこの辺りの地形を掌握しているだろうから、歩きやすい所はすでに網が張られていると考えた方がいい」
「同感だな」
「ルドルフ」
チェイザレが名前を呼ぶ声が真剣だ。
「王都に戻ろうと思う」
「ここまで来たのに!?」
大声にならないように気を付けながら、ルドルフが問う。
「だからだ」
チェイザレは少し俯き気味に顔を傾けて、話を続ける。
「きっと、山側から国境を超えるだろうと思われている。重点的に警備が配置されているはずだ。
夫人の体力では、逃げ切れない。
逃げ出した王都に戻って来るとは思ってないだろう。
王都に潜伏するのが、一番安全かもしれない。国に帰るのが遅れるが、それは重要ではない。
今はセリアと夫人の体力を回復させることが必要だ、
きっと精神的にやられている。そのうち事情もわかるだろうが、守ってやりたい」
ルドルフは少し考えて、首を縦に振った。
「まだ、王都で借りた家の契約が残っているはずだ。それを延長すればいい。ご令嬢とご夫人を見捨てるなど騎士道に外れる」
チェイザレ達は、セリアとケイトリアに話をして王都に戻ることにした。
夜明けと同時に、大きな音を立てないようにして馬を歩かす。
3日かけて王都にたどり着いたが、王国軍が厳重に警備をしており、物々しい状態になっていた。
それでも女連れということで、止められることなく王都に入り、借りていた家にたどり着いた。
「医者を呼んでもいいか?」
ケイトリアをベッドに寝かすと、チェイザレはセリアに尋ねた。
セリアは首を横に振って、いらないと答える。
どこからバレるかもしれないのだ。
「ありがとうございます。でも、今しばらく様子をみたいと思います」
ちょうど、街の様子を見にってたルドルフが帰って来て、状況を報告しだした。
「レプセント辺境侯爵軍が蜂起して王都に向かっているらしい。
それで警備が厳重だそうだ」
セリアの顔がほころぶ。武力蜂起したということは、兄のユージェニーは領地にたどり着いて、騎士団をまとめたのだ。
セリアが喜んでいるのをみて、ルドルフは次の言葉を言うのを躊躇する。
「王宮の前の広場に、謀叛人として、レプセント辺境侯爵の遺体が貼り付けられている」
セリアはゆっくりと首を動かし、ルドルフを見る。
「あ」
と息が漏れるように音がでて、両手が口元を押さえる。
「いやぁ!」
叫んだ声は、声にならずにかすんで消える。
「嘘よ!謀叛人なんかじゃない!冤罪よ!」
一呼吸おいて、何かに気づいたように、身体が震えた。
「お姉様は!? お父様と一緒に拘束されたの!」
ルドルフは首を横に振った。
「王宮にいるのか、それとも・・
何も情報をつかめなかった」
セリアは声にならない悲鳴を上げて、その場に倒れそうになったのをチェイザレが支えた。
チェイザレ達がセリアがレプセント辺境侯爵の娘だと知っている、ということまで気が回らない。
チェイザレの腕の中で、セリアは泣いた。




