国境の街
国境は伝令が届いているらしく、警戒態勢が強化されていた。
馬も人も止められ、馬車は荷物の中まで確認されているために、長蛇の列ができていた。それだけではない、国境の町は人で埋め尽くされていた。
そのせいか、街道を通らず国境の山に入って、国境を越えようとする者が後を絶たなかった。だが、国境警備隊に捕まり、厳しい取り締まりを受けた。
チェイザレとルドルフも、これほどの警備は初めてのことだった。
油断していたわけではなかった。周りに十分に気を配っていたし、兵士からは離れていた。
「うぁ、ここにすげぇ美人がいるじゃん」
後ろに並んでいる男が大声をあげた。無造作にケイトリアのフードを外そうと手を延ばしてきた。
ガシッ!
その男の手をルドルフが掴んで止める。
「汚い手で触るな」
「おい、そこで何をもめてるんだ!」
数人の兵士が走って来るのが見えて、セリアはケイトリアの手を握り、人を掻き分け逃げ出した。
「大丈夫だ、守るから、慌てるな」
チェイザレがセリアの横に並び、落ち着かせようとするが、セリアの顔は真っ青だ。
「お母様を助けて」
震えるセリアの声に、抱きしめそうになったチェイザレは小さく頷いた。
「もちろんだ」
「御夫人、失礼する」
ルドルフの声が聞こえた時は、ルドルフはケイトリアを抱きかかえ、チェイザレはセリアを抱きかかえていた。
セリアとケイトリアの足では逃げ切れない、と判断したからだ。
その後ろを兵士が追って来るが、お互いに人込みを掻き分けながらだ。
「おい!こっちだ!人を回せ!」
兵士が大声で仲間を集めが、人混みで兵士も動きが悪い。
チェイザレは綱でひいていた馬にセリアを乗せ、自分も飛び乗った。
「どけ!轢くぞ!」
周りの人間に叫ぶ。
チェイザレが馬の腹を蹴ると、馬は駆け出した。人々が馬に轢かれまいと逃げて空間ができる。そこをセリアとチェイザレが乗った馬が駆ける。
ルドルフは、自分達の馬にケイトリアと乗って追いかけた。
そして胸元から袋を取り出すと、手を突っ込み中の硬貨を後ろにばらまいた。人々はお金を拾おうとして群がり、追いかけて来る兵士の道を塞ぐかたちになった。
「追いかけるんだ!」
国境警備隊が剣を抜くと、周りから悲鳴があがり、逃げ惑う人々がパニックになる。
それは、さらに兵士達の足止めにもなり、チェイザレ達は街から逃げだすことが出来た。
山の麓に広がる森に入ったが、国境からは離れてしまった。
「ごめんなさい、貴方達だけなら国境を越えられるのに」
涙で顔をぐちゃぐちゃにして、セリアがチェイザレに謝っている。
「気にするな。乗りかかった船だ」
森に入って、馬のスピードは落ちて、歩くぐらいだ。
ケイトリアは後ろに座っているアドルフに振り返った。
「私は足手まといです。私を置いて行ってください。
どうかセリアをお願いします」
ケイトリアが頭を下げるから、アドルフは馬を止めて声をあげた。
「ちょっと待ってくれ。置いて行くつもりなら、とうにしてる!」
アドルフは、本当にいまさらだよな、置いていけるはずないよな、と苦笑いするしかなかった。




