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夕陽が沈む国のレプセント  作者: violet
セリア・レプセント
33/91

チェイザレの予想

「チェイザレ、どうするんだ?」

パチパチと火の()ねる音が夜のしじまに響く。

棒で火の様子を見ながら、ルドルフがチェイザレに尋ねる。

チェイザレとルドルフは、焚火の側の石に座っている。反対側には、セリアとケイトリアが毛布に包まって寝ている。


返事をしないチェイザレにかまわず、ルドルフは続ける。

「あんなスゲェ美人が平民のはずがない。手も労働を知らない手だ。

訳あり、って程度じゃない。

昨日、イグデニエル王国軍が貴族街を包囲していた。下手したら、イグデニエル王国と戦争になるような案件かもしれない」


「多分、レプセント辺境侯爵家だ」

無言だったチェイザレが返事する。

「ずっと考えていた。セリアは美人だが、母親はとんでもない美貌だ。多分、レプセント辺境侯爵夫人だ」

チェイザレは焚火にかけている鍋から、自分のカップに茶を注ぎ足し、ルドルフのカップにも注いだ。


「レプセント辺境侯爵夫人は、ガイザーン帝国で傾国の美女と言われた姫だ。多くの国の王族、貴族が求婚したが、魔核と引き換えにイグデニエル王国のレプセント辺境侯爵家に嫁いだと有名なんだ。

俺の父親も求婚者の一人だったらしい。

レプセント辺境侯爵邸から使用人が一斉に逃げた情報を聞いた。

イグデニエル王国で、レプセント辺境侯爵家は最強の貴族だ。そこに王国軍だぞ。とんでもない事が起こったんだ。

セリアと夫人をイグデニエル王国軍に引き渡すのか?

拷問されるかもしれないんだぞ?」


ルドルフは言葉を失って、チェイザレを見る。

そして、ポツンと言った。

「明日、二人の服を買いに行こう。あのドレスじゃ、すぐにバレる。俺達にバレたようにな。

お前が声をかけたのも、運命だったのかもな」


「そうだな。

俺の顔はご令嬢達からは、怖がられる顔だと分かっている。

それなのに、セリアは俺に付いて来たんだ。差し迫っていたのだろう」

チェイザレは、筋肉質の身体と男らしい顔である。貴公子の優しい顔とはタイプが違う。


「あの二人、すぐに人を信じて騙されるに決まっている。

とても国に追われるような大罪を犯せるわけがない。となると国の方の問題だな」

毛布をセリアとケイトリアに渡しているので、アドルフは上着を身体にかけて仮眠を取ろうとする。

「2時間後に交代だ」


「ああ、2時間後に起こすよ」

チェイザレはアドルフに声をかけると、荷物から筆記用具を出す。

焚火の灯りで手紙を書くと、胸の内ポケットにしまった。明日、街に着いたら情報を集めねばならない。


ふとセリアを見ると、自分の側で寝ているのが心配になる。

昨日会ったばかりの男に付いて来て、物音にも起きないのはダメだろう。

シェルステン王国に着いたら、どうしたらいいだろう。

まだ国境も超えていないのに、シェルステン王国での生活を考えて、チェイザレは苦笑いした。


自分達だって、シェルステン王国に戻るのは3年ぶりだ。

いくつかの国を回った。

君がこの旅の運命だった、そんな気がして、チェイザレはセリアを見ていた。


夜が明けると、近くの街に向かった。

屋台で食べる朝食に、セリアとケイトリアがいちいち反応するから、チェイザレとアドルフも笑いが込み上げる。初めての食べ物を恐る恐る食べる姿が可愛いとチェイザレは思う。

大きな店には手配が回っているかもしれないから、古着も屋台で探す。

着替えると、髪や顔を土で汚して貴族には見えないようにする。


「これから国境の街に向かう。

国境を越えたら、馬車を手配するから、それまでは馬で我慢してくれ」

チェイザレとアドルフは、ケイトリアの疲れが取れず乗馬は厳しいのは分かっていたが、馬車だと疑われる可能性が高い。


きっと国境は、手配がされている。


「チェイザレ、剣を貸してください」

着替え終わったセリアが、チェイザレに手を出す。


「どうするんだ?」

剣を欲しいなんて、不思議に思って確認する。


「この髪を切ります。(はさみ)がないので、剣で切ります。髪が短いと雰囲気が変わると思うので」

セリアの言葉にチェイザレの方が飛び上がる。


「ダメだ、なんでそんなに(いさぎ)いいんだ!

せっかくの綺麗な髪なんだ。令嬢の髪を切らせるなんて、俺をダメ男にしないでくれよ」

チェイザレの驚いた表情に、セリアは笑い出した。


きっとこの人達は国境を超えさせてくれる、セリアは嬉しいような泣きたいような気持でいっぱいだ。

自分達は、チェイザレ達の足手まといでしかない。

でも、こうやって庇ってくれるのが嬉しい。そして、何も返せない自分が哀しい。



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