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夕陽が沈む国のレプセント  作者: violet
セリア・レプセント
32/91

初めての野営

2頭の馬に分乗した、セリアとチェイザレ、ケイトリアとアドルフが夕闇の中を駆ける。

ガイザーン帝国とは反対方向のシェルステン王国に向かっているせいか、警備が手煤だった。それでも、今日は出来るだけ遠くに行くために、夜遠し駆けるとチェイザレは言った。

馬には野営の道具も積んでいる。

もちろん、セリアとケイトリアは初めての経験だ。


街道から離れ、少し森の中に入ってチェイザレ達は馬を止めた。

セリアとケイトリアが馬から降りるのを手伝って、チェイザレとアドルフは馬を木に繋ぐ。


二人を信じると決めたものの、夜中に森の中に連れてこられると、不安でたまらない。

セリアは両手を組んで、周りを見回す。森の静寂と、星明りで照らされた木々が不気味である。ケイトリアと


アドルフは森の奥に入って行き、チェイザレは石を積み、拾ってきた枯れ枝に火をつける。

パチパチ、と火が跳ねる音がして、明るさと温かさが辺りを包む。

「こっちで、火にあたるといい」

チェイザレが、セリアとケイトリアに手招きをする。


火の側に座って、セリアは二人を疑ったことに罪悪感を覚えた。自分達は何もしていないのに、こうやって一番いい場所に座らせてくれる。

「あの、ごめんなさい。何もお手伝いができなくって」


「ああ、あんた達、みるからに何もできなさそうだもんな」

チェイザレは小さな鍋を取り出すと、水を入れ火にかける。沸騰した鍋に茶葉を入れ、二人にコップを渡すと茶を注いだ。

「今日は疲れたろう、それでも飲んで待っててくれ」


けっして屋敷で飲むような高級な茶葉ではない。けれど、セリアは過去最高に美味しいお茶だと思った。

隣を見ると、ケイトリアが大人しくお茶を飲んでいる。疲れは隠しようもない。

チェイザレが毛布を出してくれたので、セリアにもたれて寝ているケイトリアに毛布を掛ける。

「私、覚えて役にたてるようになるから」

セリアは寝ているケイトリアを見る。怒涛(どとう)の一日だった。お茶と刺繍と読書が生活だった母親が、泣き(ごと)も言わず、頑張ったと思う。


「まぁそのうちな」

ははは、と(わら)いながらチェイザレが火の番をしていると、アドルフが獲物を持って戻って来た。

ウサギを狩ってきたらしい。


セリアの目の前で、チェイザレとルドルフがウサギの毛皮を剥ぎ、(さば)いていく。

肉に塩を振り、串に刺すと火で(あぶ)る。


初めて見る野生生物の処理に、セリアは目をそむけたくなるが、歯を食いしばって見ていた。

肉が焼け、油が串を伝うと美味しそうな臭いが充満する。

チェイザレがセリアに串を渡すと、セリアはまずケイトリアを起こした。お腹は空いているはずなのだ。

「お母様、食べれますか?」

セリアはケイトリアに串を渡すと、チェイザレ達の真似をして串にかぶりつく。

ケイトリアは躊躇していたが、おそるおそる串に歯を立てる。一口食べて、泣き出した。

安心したら、涙がでてきたようだ。


「美味しいわね、ありがとう。チェイザレ、アドルフ」

ケイトリアは二人に礼を言って涙を(ぬぐ)っていたが、セリアはケイトリアが呟くのが聞こえていた。

ケイトリアは、ユージェニー、モードリンと名前を呼んだのだ。我が子が心配で仕方ないのだろう。

そして、ケイトリアはセリアの手を握りしめた。


兄は領地に向かったが、どうなっているのだろう。

姉と父は王宮で拘束されたと聞いた。生きているのかもわからない。

ここに母がいることが、こんなにも心強いなんて。

セリアは、チェイザレとアドルフに事情を話してもいいかもしれない、と思い始めていた。


チェイザレと目が合うと、少しこそばゆい。

「食べたら寝たらいいよ。俺達が火の番をしているから」

そう言うチェイザレとルドルフの毛布を奪っているのは、分かっているが、今はその優しさに甘えようと思った。

(まぶた)が重くて、開けていられない。火の温かさが心と身体からも緊張をほぐしていく。



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