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夕陽が沈む国のレプセント  作者: violet
セリア・レプセント
31/91

セリアの運

「おまえなぁ、顔が恐いんだよ。恐がってるじゃないか」

後ろにいた男が、後ろから男の方を小突いている。

「ここらは下町で、治安がよくない。早く立ち去った方がいい」


「えー、ひでえな、顔は仕方ないだろう。

あんた達、ここの住人じゃなさそうだから、表通りまで送ってやるよ。

それとも、本当に逃げてるの?」

ほら、あっちだ、と男が指さす方向からはざわめきが聞こえるから、大通りなのだろう。


セリアはケイトリアを見る。

ケイトリアは疲れているのに、負担にならないよう無理をしているのがわかる。ここまで走ってきたようなものだから。

この男達に出会った自分の運を、信じてみるのもいいかもしれない。

この男達は悪い人間かもしれない、いい人達かもしれない。


セリアは顔を上げて、男達を見た。

「逃げてきたの」

握りしめた手は震えている。


男達はゴクンと唾を飲み込むと、セリアとケイトリアを見た。

「どうして、俺達に言うんだ?」


「これが私の運かと思うから」

セリアの手は震えているのに、ケイトリアを守るように胸を張る。

ケイトリアは(かぶ)っていたマントのフードを降ろして、顔を(あら)わにする。ケイトリアは自分の美貌を知っているし、使い方も知っている。

「貴方達がどんな人だかは知らない。どうか、この子だけは、逃がして」

そう言うケイトリアは、手も声も震えている。


セリアとケイトリアがお互いに(かば)い合う様子を見て、男達は肩をすくめて息を吐いた。

「怖がるなってのが無理だろうが、きっとあんた達は運がいいと思うぜ。

俺はチェイザレ、こっちはルドルフだ」


男が家名を言わないのは、家名がない平民か、家名を言えない事情があるからか。冒険者のような服装だが、生地の質がいいのがわかる。

セリアは手の震えが治まると、男達を観察する。

自分達を(だま)そうとしているのかもしれないが、悪い人ならばもっと早く攫われていると思う。

自分の運を信じて、この男達に賭けよう。

「私はセリア。兵隊に追われているの」


「やっぱりかー」

ルドルフと紹介された男が、チェイザレの肩を掴む。

「美人って、(とげ)だらけだよなぁ。でも、ここで兵隊に差し出すのも後味が悪いからなぁ」 


「俺達、シェルステンに行くんだけど、一緒に来るか?」

「おい! チェイザレ、ダメだろう。兵に追われるような女だぞ。しかも、あれは兵という規模じゃない、軍だ」

ルドルフがチェイザレを止めようとするが、チェイザレは意に止めないようだ。

「どうする?」


ガイザーン帝国に行くつもりだが、まずはこの場を逃げ切るのが最優先だ。セリアとケイトリア二人で逃げるより、彼らの協力があった方が優位なのは確実だ。彼らが悪い人間でなかったら、という前提だが。

「シェルステン王国ね? 行くわ」

セリアは覚悟を決めた。

「お母様、私達が生き延びることが重要です」

ガイザーン帝国に行きたいだろう母親の手を握るセリア。

「分かってます」

ケイトリアが微笑めばセリアは安堵(あんど)するが、驚いたのは男達だ。

「そっちの、めちゃくちゃ綺麗なのは姉じゃなく、母親だって!?」


はぁ、と溜息をついてルドルフはこっちだ、とセリアとケイトリアに物陰に隠れるように指示をする。

「俺が馬を取ってくるから、チェイザレと待っててくれ」

ガックシといった感じで歩いて行くルドルフの姿がおかしくって、セリアもケイトリアも笑いがでてくる。

逃げて、緊張してたのに、肩の力が抜けたみたいだ。


兵士達の捜査は王都の外から国境に向けて、大々的に行われているようだ。

まだ、王都にいるとは思っていないのか、貴族街を離れると兵士の姿は見えない。


セリアが空を見上げると、街は夕暮れに染まっている。

これから、この国を逃げ出すのだ。


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