お姫様の母と方向音痴の娘
ここから、セリア編になります。ガイザーン帝国でのモードリンは、敵国の貴族令嬢ということで不安定な状態が続きますが、時系列が揃う時に再びでてきます。
セリア編は、レプセント辺境侯爵とモードリンがイグデニエル王宮で拘束され、ユージェニーとセリア、ケイトリアが王都のレプセント辺境侯爵邸を脱出するところから始まります。
セリアとケイトリアは、使用人達に紛れて屋敷を逃げ出したが、街の様子など分からない。
王都では決まった商店に馬車で行くことや、護衛に守られての街歩きしかしらない。
ユージェニーが軍人の大半を惹き連れて逃げたので、セリアとケイトリアの捜索の人手は少なく、無事に屋敷から離れることができたが、気がつけばここがどこだかわからない。
王都の人混みに流されて、気がついたらここだった。
ガイザーン帝国に向かいたいが、ガイザーン帝国への行く方法も知らない。乗合馬車が国境まであるはずだが、それはどこから出ているのか?
その前に古着屋で街着を買ってドレスを着替えたいが、古着屋ってどこ?どんな看板?
立ち止まっては危ないので、とりあえず歩き続ける。
セリアは早く逃げなければと焦るばかりである。
「セリア」
「セリア」
「セリアちゃん」
ケイトリアの3度目の呼びかけに、やっとセリアが振り向く。
「ねぇ、ここどこかしら?」
なんとも、優雅なことである。セリアは周りに気づかれてないか、常に緊張状態なのに。
これで、いざとなったら置いていけ、と言った人物と同一人物とは不思議である。
こんな人間置いて行ったら、後悔しかない。
「私にもどこだかわからないのです。
ガイザーン帝国は東に向かえばいいはずですが。
お母様、この服を着替えたいので、まずは古着屋を探しましょう。」
「あらあら、セリア、ガイザーンなら東の太陽の登る方向に行かなきゃ。私達、北に向かって歩いているわよ」
ダメね、ホホホと笑う母親にセリアの張り詰めた気が緩む。
ポタポタ、涙が地面に落ちていく。
今までがまんしていたのが、堰きを切ったように頬を伝い流れ落ちる。
怖かった。
父と姉はどうしたのだろう?
兄は自分達を庇って、目立つように逃げた。
兄は自分を信頼してくれたのだ、母を守らねばならない。
「大丈夫よ、一緒にいますからね」
とても頼りないケイトリアが、セリアを慰める。
ケイトリアはガイザーン帝国の公爵家の娘として生まれたが、ガイザーン皇家の血が濃く、皇家の姫扱いであった。美しく生まれたおかげで、男達からチヤホヤされ、夫のレプセント辺境侯爵にいたっては、歩くのも抱き上げて運ぶ始末だった。
それでも、辺境ということで乗馬を覚え、活発になったが、子供達から見ても、母はお姫様である。
「ごめなさい、もう平気よ」
美しい母、この母を守るのは私しかいない。泣いてなんていられない。
こんな道中で泣けば注目を浴びるのは当然であるが、どうやら怪しい男達に目をつけられたらしい。
セリアとケイトリアの前で、男二人が立ち止まった。
「あれー、ずいぶんな美人じゃないか」ニヤニヤと笑いを浮かべて、セリアとケイトリアを覗き込む。
なに、この人達、気持ち悪い。
セリアはビクと肩を震わせるが、母を守るのだ、と勇気を振り絞る。
こんな時、正義の味方が現れて助けてくれる。
セリアが好んで読む小説では、ヒーローが現れるのだが、現実はそうではない。
「あんた」
男が一人前に出ると、セリアはケイトリアを後ろに庇う。
周りを見ると、関わりになりたくないのだろう、見ない振りをして通り過ぎていく。
「ねぇ、もしかして逃げてるの?
こんな綺麗な娘、ここいらにはいないからな。
マントの下は、豪華なドレスみたいだし」
「さっき、あっちの貴族街に国の兵隊がいっぱい集まってたな」
もう一人の男が、親指をくいと立ててレプセント辺境侯爵邸の方を指す。
この二人をどうやってかわそう。
体術は少し教わった。もっと近づいてきたら、腕を取って横に流す。
セリアは、暴漢に襲われた時の対処法を頭の中で復唱する。




