王妃の招待状
軍が出陣した後も、皇宮では処理が続いている。
人々が忙しく働いている時に、煩わせたくなくって、モードリンは部屋に閉じこもっていた。
ガイザーン帝国の事情もわからず、戦争の引き金となった人間が顔を出すべきではないと思ったからだ。
その間に、メルデルエ公爵に頼み、ガイザーン帝国の内政に詳しい教師を派遣してもらって教義を受けている。公爵家からは侍女も派遣されており、ドレスや宝飾なども届けられている。
モードリンは皇妃からのお茶会の招待状を、教師に見せた。
「戦争が始まったというのに、とてもお茶会に出席する気にはなりません。
私が断っても問題ないでしょうか?」
教師は眼鏡の片方に手を当て、内容をみても? とモードリンに確認すると、モードリンは頷いて答える。
教師は、メルデルエ公爵に覚えも深く、信頼されている人物であるらしい。
「こちらは、お預かりして公爵にお渡しします。
ガイザーン帝国では、メルデルエ公職がお嬢様の保護者となられてますから」
開戦している敵国の令嬢を婚約者とするより、自国の公爵家の保護下の令嬢の方がいいとの判断である。
もちろん、メルデルエ公爵自身からの強い願いでもあった。
メルデルエ公職家には公子しかおらず、モードリンを娘のように扱ってくれている。
熟慮の結果、皇妃のお茶会には出席することになった。皇妃の真意はわからぬが、モードリンに好意をもっていないのは明白である。皇妃の動向を探るのが目的である。
そのお茶会は、皇宮の庭園で、きらびやかなドレスに身を包んだご令嬢に囲まれて始まった。
モードリンは質はいいが華美さのないドレスを着て、装飾の類も極力抑えて小さなエメラルドのネックレスのみである。
「みなさま、初めての方も多いのでしょう。御紹介しますわね。
モードリン、レプセント辺境侯爵令嬢ですわ」
皇妃が言えば、令嬢達も拍手で迎える。
皇妃からは、離れた場所に席が用意されていて、モードリンはそこに着席をした。
最初に紹介されてから、皇妃からは一言も声をかけられない。
どうやら無視をされているようだ、とすぐに気がついた。
そして、会話はガイザーン帝国社交界の話である。
ガイザーン帝国の社交界に出ていないモードリンには、分からない事ばかりで、疎外されている。
少し前のモードリンならば、惨めに感したかもしれないが、今のモードリンは度胸がすわっている。
男達に襲われ、命からがら逃げた経験は、モードリンを強くした。
皇妃にしてみれば、男性に守られないと何もできないお姫様を想像していただけに、堂々としている様子に苛立ちが募る。
「今日は、マリオネ岬を題材にして、順番に詩を読んでみましょう」
皇妃は、お茶会の遊びに即興の詩を希望したのだ。
ガイザーン帝国では有名な岬だが、外国から来たばかりのモードリンが知るはずもない。




