国境への道
シャードとゲーリックが西の塔に忍び込めたのも、ジェイコムが牢を脱走できたのも、王宮の警備が手薄になっているからである。
王都のレプセント辺境侯爵邸から逃走した、辺境侯爵子ユージェニー、辺境侯爵夫人ケイトリア、辺境侯爵令嬢セリアを探索する為に、王都につめている兵士、騎士が動員されているから、王宮の警備が手薄なのだ。
「夫人は間違いなくガイザーンに向かうだろうから、ガイザーンに行く街道は、重点的に警備されている。
我々は迂回をした方が安全だろう。
令嬢の傷の治療もしたいが、王都付近では無理だ」
馬車の馭者席で、シャードとゲーリックは計画を練る。
そして、モードリンを奪取し迂回してガイザーンに向かう事を書いた手紙を、鳩の足に付けて飛ばす。
受け取りは、ガイザーン王太子アンセルムである。
王太子暗殺未遂でレプセント辺境侯爵とモードリン嬢が拘束された事は、昨日の事件直後に文を送ってある。
馬車を暴走させると目立つので、道行く馬車に紛れての移動である。隣国との国境まで2日かかる。
モードリンを宿で休ませたいが、それで足が付く可能性が大きい。
とにかく国境を超える事が最優先である。
シャードとゲーリックがモードリンに説明すると、モードリンも了承する。
この2年余り、シャードとゲーリックは密かにモードリンの状況を探っていた。美しい姫君、知性豊かな王太子妃になるだろう、という認識であった。
だが、傷が痛いだろうに泣き言も言わず、家族が行方不明だと伝えた時は、王家に捕まっていないと僅かに微笑んだ、その哀しい笑みにシャードとゲーリックは心打たれた。
満身創痍の父親が、自分を逃がすために騎士達に斬りつけられたのを見ているのだ。シャードとゲーリックもレプセント辺境侯爵は存命していないと思っている。
モードリンにはどれほど辛いだろう、と思うがこの状況でもくじけないモードリンの強さを見ていた。
途中の村に寄った時に丈の長いマントを買って、モードリンの破れたドレスを隠すように着せてある。
男であるシャード達が女性の衣類を買って目立つ危険があるので、苦肉の策だ。
馬車を止めてシャードが村の店に入っている間、モードリンは車窓から村の様子を見ていた。
王都と領地しか知らないモードリンにとって、驚くことばかりだ。
レプセント辺境侯爵領は、豊かな大地と、魔核の収入で経済は発展しており、領民達も恩恵を受けている。
それに比べて、この村は外で遊ぶ子供達の手足の細さが目に付く。
いつか王妃になると思ってた。
けれど、国の姿を知っていなかった。こういう民が国を支えているのだ。
畑を耕し、子供を産み育てる。
男達は兵役につき、様々な工事にもかりだされる。
もし戦争になったら、最大の被害をうけるのは、こういう民達だ。
男達は徴兵され戦争の前線に配置される、大地は荒され、女子供が蹂躙される。
戦争になったら、最小の被害で最大の勝利を得て短く終わらせるのだ。そうでないと民が苦しむばかりだ。
モードリンは王太子の婚約者という地位から離れて、改めて国を知る。
一夜明けた王宮では、王がモードリンの逃走と、レプセント辺境侯爵の死の報告を受けていた。
解毒して体力が戻った王太子エルモンドは西の塔に来ていた。
「護衛は何をしていた!?」
そこには、破れたドレスの端切れが散らばり、部屋の中は物が散乱している。明らかにモードリンが抵抗していたと思われる様相だった。そして、斬られて死んでいる男が3人倒れていた。
「王太子殿下の許可を得ているという令嬢が、この男達を連れていました」
確認のために塔から出た兵士が、恐る恐るという表情でエルモンドに報告する。
エルモンドは唇を噛み締めた。
モードリンを側妃にする為に、この西の塔に隔離したのだ。
それをメイリーンが男達に襲わせようとした、もうメイリーンを可愛いと思えなくなっていた。




