モードリンの牢獄
王族を軟禁する為に作られた西の塔は、華美さはないが豪華な家具が揃えられている。
この部屋に連れてこられて、モードリンは落ち着きを取り戻していた。
服毒した毒の種類を知らなかったら、まず魔核で延命措置をして毒を分析し解毒するのだが、王太子は解毒剤が用意されていた。その後に魔核を摂取するだろう。
解毒してから魔核を摂取すれば、劇的に体力が回復する。王太子は吐血していたが、明日には起き上げっているかもしれない。
それにしても、王太子暗殺未遂犯を拘留するには、豪華な部屋である。どうしてこの部屋をあてがわれたのか。人質という意味は理解できるが、それだけならこれほどの豪華さは必要ないだろう。
天蓋つきの大きなベッド。猫足でビロードのクッションのカウチ。縁飾りの全身の姿見。ジャガード織のソファーセット。テーブルは大理石。侍女の控室まである。
重罪人を入れる部屋ではない。
「ここは静かで、王宮の騒々しさが聞こえない。
王の様子を考えても、レプセント家が無事でいるとは思えない」
誰に言うでもなく、言葉がもれる。
「お父様は、どうされたのでしょう」
あの控室で拘束されてから、別々に移動させられた。情報は何もない。
部屋の中を確認して、逃げれそうな所を探す。窓の外はテラスも足場もなく逃げだす事は出来ない。出入口は一カ所の扉だけだが、扉の外は兵が立ち番をしている。
豪華な部屋ではあるが、閉じ込めるという機能はみたしているようだ。
何もできないまま時間だけが過ぎていく、不安ばかりがつのるが情報は何もない。
外が真っ暗になって灯りがともされても、食事を運んできた者と灯りをともしに来た者以外は、誰も訪ねてこなかった。
王太子暗殺未遂犯と言いながら、尋問もされない。
事態が大きく動いたのは深夜に近い時間だった。
扉の外から女性の声がするのだ。
「開けなさい、私は王太子殿下の許可を得ているのです」
「誰も入れる事はできません」
「俺が確認してくる、待っていてくれ」
足音が聞こえることから、衛兵の一人が確認の為に持ち場を離れたようだ、とモードリンが神経を集中して聞いていると、大きな音の後、何かが倒れる音がして、扉が開いた。
そこには見知らぬ若い女性と、男が3人。
「いいざまね」
可愛い顔をしているが、表情は醜く歪んでいる。
「罪人のくせに、この部屋は何よ。豪華で牢じゃない!」
女性は部屋の中を見渡して、気にくわないようだ。
「どなたかしら?」
会ったことはないが、王太子の名だしたことから想像は付いているが、モードリンは確認の為に尋ねる。
「どなた? そうよね、貴女達は下級貴族なんて覚えちゃいないわよね。
夜会で何度も会っているわよ。
私なんていないかのように、通り過ぎたお貴族様が貴女よ。
覚えておきなさい、私はメイリーン・マークス、私が王太子妃になるのよ」
メイリーンが言っても、モードリンの記憶には会った事などない。
夜会ではたくさんの貴族達との交流があるのだ。言葉を交わしてさえいない者まで覚えてられない。
「こんな部屋に閉じ込めるなんて、殿下は貴女をまだ側妃にしたいようだけど、そんな事できないようにしてやる」
メイリーンが合図をすると男達が前に出てきた。
「好きにしていいわよ。侯爵家のお嬢様なんてめったに抱けないだろうから、楽しみなさい」
メイリーンは言い終わると、部屋から出て行く。
男達が一歩前に出ると、モードリが一歩さがる。
「やぁ、ほんとうに綺麗なお嬢様だな」
にやけた顔で一人が言えば、他の男達も下衆な笑い声をあげる。
「怯えちゃって、かわいいじゃないか。メイリーンよりずっと楽しめそうだぜ」
モードリンの中に、メイリーンに対する怒りがわいてくる。
王太子の側妃になりたいと思われているなんて、貴女とは違うのよ!
こんな男達の思い通りになってたまるもんですか!
衛兵を倒して入ってきたことから、腕がたつのだろう。
モードリンは腕力ではかなわなくとも、こんな男達にも、メイリーンにも屈したりしない。




