レプセント辺境侯爵家の集合
二日後、レプセント辺境侯爵夫妻と末っ子のセリアが、王都のレプセント邸に来た。
ドカドカ、と怒りを表したかのような辺境侯爵ジェイコムの足音が響く。
「貴方、落ち着いてくださいな」
侯爵夫人が侯爵を宥めながら歩いている。
「分かっている。モードリンに落ち度はない。モードリンを蔑ろにした王家をどうしてくれようか」
「父上、お待ちしてました」
ユージェニーが出迎えに出て来る。
「お怒りはわかりますが、最初の手紙で領地を出たのなら、その後に私が書いた2通目の手紙は届いていないでしょう。
さらに怒りが増すので、覚悟してお聞きください」
モードリンが王太子に暴言を吐かれた時の手紙を受け取って、王都に向かったのなら、翌日の王都の謁見の手紙は行き違いになっているだろう、とユージェニーは思っているのだ。
そして、レプセント家の全員がサロンに集まって、ユージェニーが説明をして、モードリンは確認を受ける。
家族がモードリンに気をつかっているのが感じられて、モードリンは嬉しいような、惨めなような、不思議な気持ちである。
どんなに惨めでも、王太子の言葉を受けたくない。
男爵令嬢に王太子を奪われて捨てられたと言われても、側妃になるよりもいい。
「モードリン、辛かったわね」
話を聞いた母親のケイトリアはモードリンを抱きしめた。
ケイトリアは、ガイザーン帝国に行った時に、モードリンの気持ちを後押しするべきだったと後悔していた。
だが、イグデニエル王太子との婚約を解消してガイザーン皇太子に嫁ぐなど、茨の道でしかない。
イグデニエル王太子との結婚が政略であっても安定していて、穏やかな幸せがあると信じていた。
「早急に結婚解消の交渉に行く。
モードリンはしばらく別邸に行くのがいいかもしれない。
ガイザーン帝国には大学がある、そちらに留学するのもいいだろう」
ジェイコムは娘が国内から離れた方がいいと思っている。
穏便に婚約解消しても、王家とレプセント辺境侯爵家の対立は避けれない。
ジェイコムとユージェニーは目配せをする。
ここからは、女性に聞かせたくない話だ。
「母上、今夜はモードリンをお任せします」
ユージェニーが言うとケイトリンは頷く。
「私もお姉さまと一緒にいるわ」
セリアが明るい声でモードリンにすり寄った。
末っ子のセリアは皆に可愛がられて、少し人見知りをするが明るく育っている。
「では、私達はモードリンの部屋でお茶にしましょう」
ケイトリンとモードリンは、ジェイコムとユージェニーの意を正しく受け取って立ちあがった。それをセリアが追う。
モードリン達がサロンから出ると、ジェイコムはユージェニーに向き合った。
「私は早急に王に謁見してくる。婚約の継続は受け入れられない」
「はい」
ユージュエニーの答えは短いが、覚悟が含まれている。
「私は、軍の中で部下達を中心に掌握できる者を集めましょう。
軍とはいえ、必ずしも王家に忠誠を誓った者ばかりではありません」
ユージェニーは王家に請われて、軍に籍を置いている。レプセント騎士団の訓練を国軍に指導する為だ。
「この婚約はレプセント家の利益は少ない。国内安定のためのものだ。
決別となると、レプセント家はイグデニエル王家と対立するだろう。
レプセント騎士団が義勇であっても、王国軍の数は圧倒的だ。
王家の態度次第で、お前はガイザーンに走ってくれ。援軍の要請だ」
「はい」
ジェイコムとユージュニーの打合せは深夜まで及び、王都の屋敷には緊張が続いた。
二日後、レプセント辺境侯爵とイグデニエル王の会見が決まったが、王宮にはモードリンも同伴する要請があった。




