ラベンダーとうさぎ
秋なんて、寝るための季節なはずだ。秋津との家に帰ってきて、一週間。里波がまともに眠れた夜はなかった。夜が不安で眠れなくなる。いるはずのない松崎を、いないかどうか確認するために、まぶたを開けなければ安心できなくなっていた。里波は秋津に心配かけないように努めたが、食事は残してしまい、顔色も一向によくならない。
「お前さ、それって不眠症だよ」
須永が言った。後期は講義があまりなく、入院という事情もあり、里波はレポート提出で出席数は何とかしてもらえることになった。須永のアパートで、里波はバイトがない日は須永にレポートを手伝ってもらっていた。
「んー」
里波は須永のノートの字を目で追うが、意識からすり抜けていく。目をぎゅっとつぶる。須永は手を伸ばしてノートを閉じる。
「休憩しよう。提出、来週だろ? 週末の日中は俺、バイトないから、少しなら手伝える」
里波は情けなくなって、落ち込んだ。
「ごめん、須永」
「謝んな。ココア飲め。今週、スーパーで安売りしてっから、買って帰れ」
須永は立ち上がると、水を飲むブレッドに声をかける。
「里波を慰めてやれ」
ブレッドは、須永の顔を見上げて、言葉が分かったかのように里波の膝にのった。里波は、ブレッドを撫でる。ブレッドは気持ちよさそうに目を閉じる。里波は羨ましいと思ってしまった。須永がココアの香りをつれて戻って来る。温かいマグカップを里波は両手で包み、ゆっくりとココアを喉に流し込んだ。
「お前、病院行った方がいい」
須永が強めに言った。里波は渋る。
「んー、でも原因は分かってから」
暗闇にのぼる、煙のような松崎が記憶一面にこもる。里波はココアの香りの湯気で、それを追い払おうと鼻を動かし、飲んだ。
「原因が分かっていよーが、お前に治療はできねぇだろ」
ごもっとも。里波は頷くしかなかった。
「レポートが出せたら行く」
「そうしろ」
須永はそれ以上、すぐに病院に行くことは無理強いしなかった。
「まあ、秋津さん頼れよ」
「……そうだね」
里波は頷いた。ココアを一杯飲み終えると、その日里波はひとつ、レポートの下書きを終えた。
帰りに里波はスーパーに寄った。ココアを買う。それだけでレジで行こうとしたが、酒が目に入る。里波は酒を飲むと眠くなる体質だった。度数の高い缶チューハイを三本、カゴに入れた。
里波が家に帰ると、秋津が夕食の支度をしていた。
「今日、卵とじうどんのかしわ入り」
秋津が冷凍庫からうどんを出すと、献立を伝えた。
「うまそう。漬物出すよ。何がいい?」
「梅干しは?」
「いいね」
里波は帰ってきたら、秋津と気まずくなるのではないかと心配していた。けれど、帰ってきたその日から里波の心配をよそに、すぐに前の日常と変わらない会話ができた。秋津は、松崎との一か月について、里波に聞くことはなかった。里波は冷蔵庫を開ける。
「それは、よくないね」
秋津は背後から、里波の手にあった缶チューハイを奪った。驚いた里波は秋津を見上げる。
「体調戻るまでアルコール禁止」
秋津は袋からココアだけを食卓に出すと、里波から取り上げた缶チューハイを袋に戻して口をきつく縛った。
「いや、最近寝れないから、俺。酒飲むと眠くなるから、さ」
里波が酒を取り戻す理由を伝える。けれどそれは、秋津の顔をさらに厳しくさせるだけだった。
「やっぱり、寝れてないんだ。夜、何度も起きてる音したから」
「あ、起こしてたんだ。ごめん」
「俺はよく寝れてる」
秋津は梅干しを出して冷蔵庫を閉めると、里波の肩に優しく手を置く。
「お酒は没収。隠して来るから、鍋が吹きこぼれないように見張っておいて」
秋津は微笑んで、台所を出て行く。里波はコンロの前に立って、ぐつぐつ鳴る鍋をぐったりと見る。
うどんだったおかげか、里波はその日の夕食は完食できた。レポートの下書きを清書しようと、デスクのノートパソコンを開く。パソコン横に置かれた栞が目に入る。
「あ」
声を上げた里波は、風呂場へ急ぐ。秋津がシャワーで洗剤の泡を流していた。
「秋津さん、図書館の本返してくれたんだ。すっかり忘れてた。ごめん」
「ああ、何事かと思ったらそんなことか。いいよ。俺も気がついてよかったよ」
秋津はシャワーを止める。
「里波が留守にした日に、洗濯物を運んだ時に見つけて。返しておいた。意外な趣味でちょっと、驚いた」
「え?」
里波が読んでいる著者は、秋津もよく知っているはずだった。秋津は言った。
「栞」
ああ、と里波は納得した。
「あれ、バザーで買ったんだよ。それでなんとなく使ってる」
「竹の栞なんて、渋いな」
秋津が笑う。竹。その言葉に、里波は申し訳なかった。
「ごめん、デリカシーなかったね。秋津さん、竹嫌いだったね」
秋津はキョトンとすると、高笑いをした。
「あんな、かわいいウサギに俺がうろたえると思うのか、里波は」
笑い続ける秋津に、里波はむくれた。
「里波、俺との生活に神経をすり減らすな。俺の心配はしなくていい。先に風呂に入りな。俺は見たいテレビがあるからゆっくりしていいから」
秋津は風呂に湯を溜める。
零時が来る。時計を見なくても、里波はそれが感覚で分かるようになってしまった。不安に里波は布団にすがりつく。松崎はけして好んで、里波に触れることはなかった。嘘の愛を吐いて、傍にいるだけだった。それだけで松崎は里波の心を蝕むことができた。里波はそれが悔しくて堪らなかった。誰かがくる気配がした。里波は身体を固くする。
「里波?」
秋津が声をかける。里波は声を出さない。秋津は布団の上に、手を置いた。里波は起き上がる。息切れし、汗をふき出していた。秋津の顔を見ると、里波は泣きそうな顔をした。
「悪い。いつもにまして、唸り声が聞こえたから」
秋津が言った。里波はうずくまり、膝に顔を押しつけた。秋津は床にあぐらをかいた。
「松崎にどんな、酷いことされた?」
里波は涙を拭うように顔を横に振った。
「何も。本当に、何も。何もされてない」
くぐもった里波の声が、こぼれる。
「あの人は、ただ、近くにいただけ。夜は、隣にいて、昼は家のどこかにいた。それだけだったんだ。それだけなのに」
もうこの家には松崎はいない。それなのに怯え続ける自分が、里波は煩わしく、蓋ができない罪悪感が全身に流れる。
「ごめん。昼に聞けばよかったね。もう、寝な。もうしばらく、ここにいるから」
里波は布団を握る。
「ひとりがいい……」
か細い声で、里波は言った。秋津はゆっくり立ち上がる。
「そうか。じゃあ、おやすみ」
「……ん」
里波は布団に潜ると、まるまった。秋津は静かに戸を閉めた。
「お前が電話をかけてくることはないと思っていたから、留守電見てびっくりしたよ」
関本は研究室の固定電話から秋津と話していた。背もたれに身体を預け、足を組む。足元には電気ストーブがあった。
「念のため、番号を聞いていてよかった」
秋津は居間で電話を受けていた。里波は大学に行って、須永のアパートに寄るため、帰りは遅い予定だった。森を出る時、秋津は関本の研究室直通の電話番号を聞いて、覚えていた。
「そんで? ここにかけてくるってことは、奥野に知られたくないってことでしょうよ」
「知られたくないというか、今は接触したくない。奥野から聞いてないか?」
「さぐり入れないでよ。面倒」
「松崎と里波のこと」
関本が沈黙する。
「なにそれ、聞いてない。なに?」
秋津は赤森が来たことから、里波が不眠症になったようだということまでを話した。関本は重たい溜息を吐いた。
「それで? 秋津、あんた森に帰ってくんの?」
「いや」
秋津はすぐに否定した。
「今は里波から離れたくない」
関本は静かに驚いて、背もたれから離れる。組んだ足もはずし、デスクに向き直った。
「それって、里波を好きになったってこと?」
「違う」
秋津はまた、すぐに否定した。
「一か月、里波がいない間、不安だった。ずっと、そのー、なんというか、」
ぽつりぽつりと話す秋津に、関本は黙って耳を傾けた。
「家の鍵閉め忘れたとか」
「は?」
けれど関本はつい、口をはさんでしまった。
「ガスの元栓閉めたかとか、エアコン切ったかとか、出先きでふと思い出して、不安になるやつ。あれ。分かるか?」
「いや、めっちゃその不安はわかるけども、それと里波を重ねるあんたの情緒はすぐには分かんない」
関本はデスクに肘をついて、片手で頭を抱える。秋津は言った。
「里波のことが見えないのは不安だ。不安がっているあの子が目の前にいるのも、不安だ」
抱えた頭を起こすと関本は、考え、笑みを浮かべた。ひとり納得して、椅子を一回転させた。
「そうね。秋津が、里波の不安を取り除けたら、それがいいね。きっと」
「例えば、何をするのがいい?」
秋津は意見を求める。
「里波が眠れないのは、トラウマによるストレス。原因は分かってる」
「原因がなくなれば、いいのか?」
「それは、そうだけど」
「松崎を殺せばいいのか?」
「アホ。意味ない」
秋津は本気だ。それは分かったが、関本はすぐに冗談として流した。
「松崎が死んでも、里波のトラウマはなかったことにできない。原因を取り除くってことは、里波の一か月分の記憶を失くすしかない」
「できるか?」
「できない」
当たり前だと、関本は言い足す。関本は諭すように辛抱強く話す。
「あのね、秋津のさっきの話で自分でも言ってたでしょーが。里波は不安な状態なの。今の里波はすごく不安」
「今の里波はすごく不安」
秋津が頭に叩き込むように、繰り返した。
「そう。だから、安心できるものを与える、する。松崎との一か月より強い安心」
「それは、」
秋津は間を置いてから、
「難しいだろう」
と、言った。
「当たり前よ。トラウマは一瞬で生まれるんだから。安心を得るには、対価が合わないくらい時間がかかるの。信用と安心のコストはえげつないのよ。だから、長丁場になるよ。覚悟ある?」
秋津は鼻で笑う。
「俺に時間を説くのか?」
「途中で放り出すなって言ってんの」
「しないよ。一年契約はとっくに更新した」
ここでそれを言い訳にするか、ずっこい男、と関本は罵倒してやろうとしたが、胸に留めておいた。
「現状、里波にいちばん安心を与えられるのは秋津だと思うから。アドバイスはする。食事とか、香りね。けど、あんまり眠ることに対して、プレッシャー与えたら、ダメだからね。気長に、少しずつ。リトル・バイ・リトル」
「得意だよ」
秋津は自信ありげだった。
「里波、ちょっと」
風呂上がりの里波が台所でホットミルクを飲んでいると、秋津が居間から顔を出した。
「ミルク持って、こっちおいで」
秋津が居間に引っ込む。もうミルクは少ししか残っていなかったので、里波は飲み干すと洗ってから居間に行った。
「座って。腕出して」
秋津は隣を叩く。
「どっちの腕?」
座りながら里波は尋ねる。
「どっちも。でも、とりあえず右からで」
「ん」
里波が右腕を出す。秋津はその腕にボディクリームを垂らす。香りが里波の鼻に届く。
「ラベンダー?」
「そう。気休めだろうけど、おまじないとでも思って」
アロマだとあからさま過ぎるから、ボディクリームにしておいたらという関本の助言で、秋津はいそいそとドラッグストアに買いに行っていた。秋津は大きな手で里波の腕を包むと、優しく塗り広げる。
「肘、ちょっと乾燥してる」
「え、そう?」
秋津は手に、ボディクリームを足すと里波の肘に塗り込む。秋津の手が離れる。里波は腕を嗅いだ。
「もっとラベンダーってトイレみたいなにおいするかと思った」
「平気か?」
「大丈夫。あと、俺自分で塗れるよ」
「ん? んー。そうだねぇ」
秋津はボディクリームを里波に渡そうとしなかった。
「里波が俺のまぶたにジェルを塗ってくれただろう? 俺はあれが心地よかった。悪意がない。伝わるのは緊張と優しさ」
秋津は里波の左腕を手に取る。里波は力を抜いていた。
「里波の冷たい体温に触れるのはすごく、よかった。こっちに来てからは、頻繁に触れていい理由がなかったからね。だから、これは俺がやる」
秋津はボディクリームを塗った。クリームが溶けていくのを里波は眺める。
「森の時と、逆だ」
「そうだね。俺だけ面倒みてもらって、不公平だからね」
「ふふっ」
里波は久しぶりに笑った。けれどクマのできたその微笑みが、秋津は可哀想だった。
「夕食のお茶、ドラッグストアで安売りしていたやつなんだけど、味大丈夫だった?」
秋津は嘘を吐いた。今夜のお茶はノンカフェインのブレンド茶だった。値段はそこそこした。里波もなんとなくそれを察していた。
「おいしかった。あれ」
「じゃあ、しばらくこのままで」
「うん」
「足はどうする?」
秋津が聞けば、里波は裾を捲り上げて秋津の足の上に足を置いた。
「お願いしまーすっ」
「急にずうずうしくなったな」
秋津は嬉しそうにした。
「じゃあ、秋津さんにも塗ってあげるよ」
「えー、俺はいいよ」
「なんでぇ」
里波にとって久々に楽しい夜だった。それでも里波は深い眠りに沈むことは、できなかった。
「おわったぁ」
里波は床に仰向けに倒れた。
「お疲れ」
須永ぶっきらぼうに労った。里波はレポートを書き終えた。須永がスマホを見る。
「一時半か。腹減ったな」
「俺、奢るよ。食べに行く?」
須永は悩む。
「そんな気分じゃねぇな」
「そうー?」
里波は前来た時になかった、段ボールを見つけた。起き上がると指さす。
「なにあれ」
「ああ、新しいキャットタワー。もう一個増やそうと思って。設置しようと思ったけど、部屋の模様替えしてからにしようと思って」
「今、作る? 手伝おうか?」
「そんな気分じゃねぇ」
「そう。模様替えかー。俺もしようかな。気分転換に」
里波はその気もないのに、適当なことを言った。ブレッドが鳴く。里波は近くにあった猫じゃらしを振ったが、ブレッドは相手にせずにキャットタワーにのぼる。
「里波の家って、間取りどうなってんだ?一階建てだったよな」
須永は里波と秋津の住む家に入ったことがない。
「うん。普通だよ。台所があって、居間があって。居間の隣が俺の部屋で、玄関入ってすぐ左が、秋津さんの部屋」
「秋津さんの部屋ってどんな感じ?なんか物が少なそうだよな。ミニマリストってイメージ」
「どうだろ、入ったことないからな」
覗いたことも、里波は一度もなかった。秋津も何か取りに来るときしか、里波の部屋に入ることはなかった。最近が、例外だった。一緒に住んで、一年以上経っているのに、里波は秋津の部屋に用事があったことはなかった。
「きっちりしてんな」
須永が感心した。里波は笑っておいた。
昼食は、ピザにすることにした。配達より、取りに行く方が安いため里波が店まで受け取りに行った。少し待って呼ばれ、レジに行く。財布を出すと、横から伸びて来た手がトレーに万札を出した。
「ブレッドは元気か?」
「赤森さん!」
里波は驚く。
「お釣りはやるから。少し話そう。外で待ってる」
会計をすぐに終えた里波は、赤森と須永のアパートの方へ向かう。赤森は立ち止まり、サングラスをはずす。
「すぐ帰る。里波ちゃんに、きちんと謝りたかった。酷い目に遭わせて本当にすまん。申し訳ない」
頭を下げる赤森を里波は不憫に思った。
「全部、赤森さんが悪いんじゃない。俺が秋津さんと暮らしているからだ。そんな重々しく謝んないで。嫌だよ」
里波は言った。赤森は頭を上げると、里波の顔を見つめた。
「ひでぇ顔だぞ。里波ちゃん」
「ちょっと寝れなくて。ブレッドは元気だよ」
「それはよかった。でも、里波ちゃんも元気になって欲しい。そうか、寝れないのか」
赤森は深刻そうに、顔を伏せた。松崎のことで相当、罪悪感を持っているんだと里波は感じ、励ます言葉を考えるが、出てこない。
「里波ちゃん」
「なに?」
「睡眠には、ギャバがいいらしいぞ」
赤森は真剣な眼差しで言った。
「ああ、聞いたことあるかも」
拍子抜けした里波は頷く。
「俺が今からありったけのギャバを用意する。ピザ冷めるから、早く行きな。一時間は須永ちゃんの家にいるな?」
「ああ、うん。一時間はいると思う。もう、ちょっといるかも」
「分かった! じゃあな!」
赤森は走り去る。須永のアパートで、ピザを食べながらのんびりしていると、ベランダから赤森が現れて須永が叫んで、その声でブレッドがキャットタワーから落ちた。赤森は大きな紙袋、二袋分に詰まったギャバ製品を里波に押し付け、須永には猫缶をあげ、一分ぐらいで帰った。ギャバのチョコレートと飲み物を須永に少し分け、里波も家に帰った。
家に帰って、秋津が紙袋を見て驚き、理由を聞くと不機嫌な顔をした。
「あいつ、もうこっちをうろちょろすんなって言ったのに」
「地味な服だったから、一応目立たないように気を遣ってくれたんだよ」
赤森は帽子にブラウンのコートをはおっていた。里波は赤森のくれたものをちゃぶ台に広げる。
「冷蔵庫入れるのとかあるから。秋津さんも飲んでね。賞味期限あるから」
「あいつ、逆に迷惑かけにきたんじゃないか?」
「そんなこと言うなよー」
里波はテレビの横におおきい段ボールがあるのに気がついた。これも今朝はなかった。
「デカい荷物じゃん。なに頼んだの?」
「ああ、そうそう。里波にあげようと思って」
秋津は段ボールを開ける。大量の梱包材を床に投げるとナイロン袋に入った白い物体を段ボールから引き上げる。
「なになに」
里波は興味津々で段ボールに近づいた。秋津はナイロン袋を破ると、それはデカい白ウサギのふわふわなぬいぐるみだった。
「なにこれ!」
里波は大笑いする。秋津はぬいぐるみを里波に抱かせる。
「肌触りいいか?」
秋津に聞かれ、里波はぬいぐるみの耳を撫でる。
「めっちゃいい」
「肌触りのいいものに密着すると心が落ち着くらしい」
関本が何かふわふわしたものを買い与えろと助言していた。
「よかったら、一緒に寝てあげて」
「ありがとう! めちゃウケる」
ウケる、はこの場合褒め言葉なのか、秋津は考えた。その間に里波はウサギのぬいぐるみを自室に連れていき、ベッドに寝かした。丁寧に布団もかけてやる。里波はまた大笑いした。
「秋津さん、来て! 見て!」
里波が自分の部屋に呼ぶ。秋津が来ると、里波は嬉しそうにベッドを見せた。
「めっちゃかわいくない?」
里波は笑いながら、スマホで写真を撮る。そんな里波を安心したように秋津は眺めて言った。
「めっちゃかわいい」
ふふっ、と笑いながら里波は秋津をふり返る。
「秋津さん、ありがとう」
「うん」
秋津は少し照れくさそうにした。
しばらくすると、白いウサギのぬいぐるみから、ラベンダーの香りが消えなくなっていた。




