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第八十話「罪と未来」

【登場キャラクター紹介】


挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

 太陽が最も高く昇った乾いた大地で、ディーネの肺は、もう何度も焼けつくような空気を吐き出していた。


 ドラゴンゾンビの攻撃は、怒りも焦りも孕まない。

 流那(るな)が身じろげば、その分だけ軌道が修正される。

 ノーミーが息を詰めれば、次の一撃は必ずその位置に来る。

 ――反応しているのではない。

 “観測されている”のだ。


 指先に纏わせた《音》は、もはや“形”を保っていない。

 それでも腕を伸ばす。

 背後に、護るべき二人がいると知っているから。



「ディーネ! あなた水の精霊でしたら《水流幕(アクアカーテン)》使えますでしょ!? それでルナの止血を――」

 ……言い切る前に、ノーミーは口を噤んだ。

 それが不可能だと、もう分かってしまったからだ。


「……ディーネ……あなた……」


 多量の出血はないものの、大の字に立ち尽くすその体は、あらゆる所がズタズタに引き裂かれ、見るも無惨な有様だった。


「……あぁ、あたし、防御系魔法、一切使えないんだわ……」

 ディーネは虚ろな目で虚空を見つめながら、そう呟いた。

「……あなただって、十分重症じゃない……? 何やってるのよ……」

 ノーミーが震える声でかつての仲間の変わり果てた姿に戦慄を覚える。


「さあ……何やってンだろう、な……?」

 ディーネは膝を曲げて地面に仰向けで寝転びたい欲求に駆られた。

 あれ程までに自分の欲求に素直だったはずなのに、何故だか今は、その欲求に抗いたかった。



 ――強かった。

 それだけだ。

 攻撃力も、経験も、数だって足りていた。

 なのに、負けた。


 ――違う。


 あたしは、“勝つべき場所”を間違えていた。



「ルナっ! あぁ……ッ!」

 ノーミーが自分には何もできないことを自覚すると、ルナに覆い被さるようにその身をディーネ同様盾にする。

 もう大きく動けないディーネは、風を切り裂き撃ち出される石の(つぶて)を手甲に当て、角度をずらし、二人への直撃を反らすことくらいしかできなかった。



「……マリ……」

 なぜ今その名を口にしたのかディーネには分からなかった。

 ただ、ルナとマリ、二人とやりあった時は“楽しかった”。

 あいつらは倒しても倒しても次には予想を超える切り返しをしてきて、わくわくしたものだ。

 それに比べ、このドラゴン電神(デンジン)の単調な攻撃と来たら……


「――なあマリ。ルナにはお前が、必要なんじゃない?」

 ディーネは《石の弾丸(ガンストーン)》の方は体の反射に任せ、神経を研ぎ澄ませる。


 背後で、流那の呼吸が一度、詰まる。それだけではディーネは振り向かなかった。

 見れば、立てなくなると分かっていたからだ。

 外したまま首にかけたヘッドホンが、まるで生死を分かつ天秤のように揺れる。



 ――ルナめ……さっき《精霊の泉》の石碑、ぶっ壊してたよなぁ……

 あーあ。

 精霊たち漏れっぱなしじゃんよぉ……


 精霊の泉が砕け散ったままの大地が、まだ熱を持ったまま、微かに鳴っていた。

「マリ、頼むよ。あたしじゃ、足りないみてーなんだわ……」

 ディーネは膝に撃ち込まれ、ついに膝を曲げ崩れ落ち――

「ッ……ざけンなぁ! ここで死ぬために、こいつはここまで来たンじゃねえんだろッ!!」

 崩れ落ちない!

 再び足を踏ん張り、後ろにいる流那たちの盾になる。


「ディーネっ!」

 ノーミーの悲痛な叫び声が上がる。


 以前のノーミーだったら絶対に聴けないような声だなと、ディーネはふっと口元を緩めた。


 そして、天に叫んだ。


「……ちがう!

あたしじゃ、届かない……!

マリ……!

ルナには……お前だろ!?

連れてけよ!!

……あたしじゃ、ダメなんだ……ッ!」


 声が空を突き抜ける。

 それはまるで、願いを天に乞う、祈りのような叫びだった。



 その瞬間、砕けた泉の底で、水音が――逆流した。


 それが異変だった。


 銃声が、止んだ。

 勝ったわけでも、逃げたわけでもない。

 ――ただ、世界が一度、息を止めた。



 夕闇の色を連れてきた風が、そっとディーネの頬を撫でた。

 ディーネは倒れ込む寸前に、()た。


 遠く離れたドラゴンゾンビの胴体を、無数の水の縄が絞め上げるのを。

 あの縄には見覚えがある。


「……へへへ」


 ドラゴンゾンビは水縄に全身を拘束され、宙空に持ち上げられた。


「相変わらず、えげつないねぇ……」

 ディーネは地面にうつ伏せに倒れながら、口に弧を描き、そう呟いた。


 ディーネだけには聴こえる。


「電神に問う。流那を傷つけたのは、君?」


『ルナぁ? ルナって誰よ?』


「……話にならないね」


(あ。きまったな……)

 短い問答が終わると、水縄がドラゴンゾンビを一気に絞め上げ、バラバラに分断した。

 その音を聴いたディーネは、ようやく気を失えると、安心してその意識を絶った。


挿絵(By みてみん)

『超次元電神ダイタニア』

 第八十話「罪と未来」



 マリンが三人が倒れ込んでいる場所まで息を切らせ駆けつけた。

(……酷い傷だ。みんな、気を失っている……)

 その中の薄青色の髪の一人を視認すると、ゾッと身の毛がよだった。

(……どうして、君が……)


 青い顔の流那へ向き直り、頬を伝う冷たい汗を一度手で拭うと、マリンは彼女の頸動脈に震える二指をそっと当てた。

 確かな生命の脈動が指先に伝わる。


 マリンは、これ以上涙が溢れないように目を瞑り、その脈動に感謝した。


(生きてるッ! 流那ッ!)


 マリンは回復魔法が使えない代わりに、自分が今でき得る最大限を流那に施す。


 《水流幕(アクアカーテン)》を帯状に巻き、完全に傷口の止血をする。

 巻かれていた布は多分に血液を吸っていたが、しっかりと止血点で結ばれていて応急処置としては申し分ないほど、流那の生命を繋ぎ止めてくれていた。

 誰が施したか分からないその努力の跡を見て、マリンの涙は堪えきれず溢れ出す。


 《生命力増強(ライフアップ)》、《防御力増強(ディフェンスアップ)》、意味があるか分からないが《幸運増強(ラックアップ)》と、自分が掛けられるだけのバフスキルを流那に掛けていく。

「流那ぁ、流那あッ! ぇッ……うぅ……ッ!」

 嗚咽と涙にまみれ、視界は最悪だったが、次第に流那の呼吸が安定してきたのを見て、ようやくマリンは自分が呼吸するのを忘れていたことに気づき、肺いっぱいに空気を吸い込んだ。



 まだ、油断はできない。

 少し落ち着いたマリンは隣りに倒れている二人の精霊を見やる。

 一人は、自分を消滅に追いやった――ディーネ。


 眉間にしわを寄せ、倒れて物を言わない彼女をじっと見つめた。そして――


「……《魔力分与(マジックパサー)》」


 マリンの両手はディーネ、ノーミー二人に向けられ、自らの魔力を分け与える。

 その顔は、警戒と緊張を一切切らしていなかった。


 魔力を分け与えられ、まずノーミーの意識が戻った。一番軽傷であったため、覚醒するのも早かったようだ。

「……魔力が……ッ! ルナはッ!?」

 覚醒するや否や、ノーミーは体ごとルナに向き合い、状態を確認する。


 穏やかに呼吸をしている流那を見て、ノーミーは大きなため息をついた。そして、そのままマリンに向き合う。

「どなたか存じ上げませんけど、あなたがルナを……ありがとう……ありがとう……ッ!」

 敵であるはずのノーミーが自分に頭を下げ、更には涙を流しながら礼を言う姿に、マリンは今の状況を呑み込んだ。


「君が、流那に処置をしてくれたの? こちらこそ、ありがとう……。お陰で流那は持ち堪えたよ」

 マリンは目を細くして柔らかい笑顔でノーミーに返礼する。



 それから、マリンの後ろで誰かが起き上がる気配がした。

 上半身だけ起こし、鋭い眼光でマリンを睨む。

 マリンは視線を逸らすことなくディーネの目を見つめる。

 その瞳の奥の、真相を見抜こうという、信念の眼差しで。


 だが、ディーネはすぐにマリンから流那へ視線を移した。

「……ルナは、どうなった?」

「ッ!」

 その声色と表情にマリンは驚かされた。

 地球で生死のやりとりをした彼女からは感じられなかった“熱”が確かにそこにあった。

 マリンは動揺を自身の心の中で鎮めることに努め、一拍おいてディーネに答える。


「容態はなんとか。でも、血をかなり失ったみたい……まだ目が覚めないんだ……」

 マリンが流那の髪をそっと梳きながら、今にも泣き出しそうな顔で流那を見つめる。


「……血、か……」

「わたくしたちの血じゃ、輸血はできないのでしょうね……」

 ディーネとノーミーが己の無力さに肩を落とす。

「君たちは、回復魔法は使えないの?」

「あぁ……」

「はい……」

 こんな時、ウィンドがいてくれたら、と考えてしまう甘い自分に、喝を入れるようにマリンは首を横に振った。


「みんなで考えよう。流那を、救けるんだ」





 太陽が西に傾きかけ、空をオレンジと紫のグラデーションに染め上げていく。

 広大な大地の上に、小さな話し声だけが聞こえる。


 精霊たち三人は流那を囲み、己の得意不得意な領域、魔法の性質など、包み隠さず意見を出し合っていた。



「魔力を少し分け与えた分、簡単な魔法なら使えるよね? ノーミーの《土の針(クレイニードル)》を、中は空洞に、極小に生成できる? それこそ注射針みたいに」

「注射針、ですか……やったことはないですけど、相当な集中と魔力が必要になりそうですわね……」

「ディーネは《狂騒歌(シンフォニカ)》の出力を最小限にしぼって、流那の体内に残る石片を粉砕、完全に消去できる?」

「……完全にか……正直、無にするのは難しいね。粒子にまでしたら洗い流すとかしないと、完全に除去はできないと思う……」

「……そう。それで、目を覚ましたら流那の《物質変換(マテリア)》で僕の魔力を血液にして輸血する。成功率は、計算できない……。どうだろう?」


 そこまで一息でまとめ上げ、マリンは二人に意見を求める。

 ディーネとノーミーは顔を見合わせ、頷きあうとマリンに向き合う。

「ルナにも、確認とらないと、な……」

「そうだね……。輸血の間、意識を繋ぎ止めておかなきゃならない……。途中、意識を失って《物質変換(マテリア)》が切れたら、魔力を直接流那に注入することになっちゃう……。そうなったら、人間である流那は、最悪――」

「死ぬかも知れないのよね? ……でも、他に代案もないのですものね……」

「うん……。僕たちにでき得る、精一杯だと思ってる。あとは、流那次第……」


 三人の視線が一点に集まる。

 想いが一つに重なり、願いとなる。


 この人をどうか、救けてください、と――



 しばらくして、三人の想い人は目をゆっくりと開けた。

 その顔は白く、唇は青い。

 流那は頭の重さに顔をしかめ、目眩と寒気で全身を震わせた。

 視線だけを、自分を覗き込む三人に向ける。


「……え?」


 その顔の中に、マリンの顔があったことに、流那は最初、まだ寝ていて夢でも見ているのだと思った。

 そんな彼女に柔らかく丁寧な声が降りそそいだ。


「流那? 驚かずに聴いて? 時間は、余り無いんだ……」

 マリンの声が確かに、する。

 流那の心は激しく動揺したが、その意識がマリンの声に集中する。


「君は今、血を失い過ぎてまともに喋ることもできないだろう……。だから、無理に喋ろうとしないで? これから話すことを、よく聴いて、そして、決めて欲しい……」


 流那は出ない声の代わりに涙を流しながら、小さく頷いた。



 その後、マリンたちは一通り、これから緊急手術をすることの必然性と、その危険性を流那に説明した。

 流那は驚きながらも、最後まで黙って聴いていた。そして――


「……それをしないと、私、死んじゃうかも知れないの、ね?」

 細い声をなんとか搾り出し、流那が問うた。

 久し振りに聴いた愛しい人の声の弱々しさに、マリンは涙が零れそうになるも、奥歯を噛み締め、ぐっと堪える。

 流那の問いに三人が無言で頷く。


「手術をしても、助からないかも、知れないのよね……?」

 三人の顔が引きつる。

 誰一人として受け入れたくない事実を、この流那の前では曲げる事は許されないと、解っていた。

 三人はまた、無言で頷いた。


「……そう…………」


 流那は目を瞑り、暫し夕凪が髪を撫ぜる感覚に身を委ねた。

 そして――


「やらないでいいわ」


 流那が、にっこりと笑った。

 マリンたちはその笑顔を見て、驚いた表情を見せたあと、縋るような目で流那を覗き込む。

「流那ッ……!」

 マリンは流那の手を握り、名を呼んだ。

万理(まり)……それと、ディーネとノーミーも、聴いて」

「え……?」

 流那は握ったマリンの手を両手で包み込み、ゆっくりと自分の胸元へ導くと、そっと目を閉じる。

 その掌から伝わる体温に、マリンは泣き崩れそうになるのを堪えた。

 ノーミーとディーネも近くに寄り、流那の言葉におとなしく耳を傾けている。


「もし、この手術が失敗して私が死んじゃったら、誰かが必ず後悔する。いえ、それは後悔なんて生易しいものじゃない……“呪い”よ……」

 流那の声が一段低くなり、凄みを増した。


「その呪いは消えることなく、一生あなたたちに付き纏うことになる……。私はね、そんな思い誰にもさせたくない……」


 そこまで言うと、流那はできる限りの笑顔を作って言った。

「だから、ありがとう。私のために色々考えてくれて。素直に、嬉しかった……」

 流那は三人の顔を代わる代わる見ていく。


「……ノーミー?」

 急に自分の名前を呼ばれてノーミーはドキッとし、つい背筋を伸ばして流那を心配そうに見つめる。

「なんですの、ルナ……」

 流那は優しく微笑むとノーミーに向け話しだした。


「あなたとはまだちゃんと話せてなかったわね。

あなたの過去に何があったのか、知らない……

あなたが犯した過ちも、

あなたが微笑んだ事実も、

きっと本当のことで、

それがあなたなんだと思う。

あなたはあなたとして、

これから先の未来を、明るいものにしていって?」


 ノーミーは流那の言っていることに感銘を受けるより先に、得体の知れない不吉さを感じ取った。

「え? いやよ……いやよルナ……なんで今、そんなこと言うんですの……?」



 流那は今度はディーネに視線を向ける。

「ディーネ……」

 ディーネはその視線に気付くと、視線を外に逸らして、下を向いて俯いた。

「ごめんなさい」

「はぁッ!?」

 ついいつものノリで顔を上げてしまうディーネ。それほど、流那のひと言が意外だったのだろう。

「……私は一度、あんたのことを――」

「待ってルナ! それ以上は言うな! 絶対に言うんじゃないッ!」

 ディーネにしては珍しく本気の拒絶だった。

 ディーネはチラとマリンの方に視線をやる。


「……戦場で一々そういうのは、言わないんだ。それを言うなら、あたしだって――」

 マリンはディーネの視線から目を逸らさず、二人の会話に耳を傾けている。

 その目は変わらず、ディーネを見定めているかのようだった。


「でもね? 今ここは、戦場じゃない。分かり合えてない連中がさ、あの激強ドラゴン倒したのよ? それだけで、すごいことよね?」

 流那の声色に嬉しげな色が灯ると、何故だかディーネの心は軽くなったような気がして、素直に答えてしまう。

「ああ。そうかもね……」


 その返事に納得するかのように、流那は目を瞑り、細い声で続ける。

「……私ね? 早くに両親を亡くしてから、死にものぐるいで生きてきたの。生きて、生きて、生き抜いて、絶対誰よりも楽しく生きてやろうって……ッ!」

「おいッ!?」


 流那は一瞬、意識が飛びかけるも、何とか堪え、またゆっくりと話し出す。

「似てるのよ、私たち。あんたは納得いかないかも知れないけどね」

「…………」

 彼女のその言葉にディーネは改めて流那の顔を見た。

 そこには、晴れやかな笑顔があった。


「生きるって、素晴らしいことよね」


 ディーネには分からなかった。

 どうして、今にも自分が死にそうだと言う時に、この人間は、ルナは! こうも幸せそうな顔ができるのか……。

 ディーネは初めて、他人の考えに本気で疑問を感じ、他人のことを、知ってみたいと心から思った――



 そして最後に流那はマリンに視線を合わせる。

「流那、安静に……」

「してるわよ……」

 流那は目を閉じながら落ち着いた様子で話し始める。


「……再会の喜びは、後回しにするわよ?」

「え? あ、ああ、うん……」

 流那は片目だけを開け、悪戯っぽく笑う。

「万理?」

「何……?」

 マリンが心配そうに流那に顔を近づける。その瞳からは今にも涙が溢れ出しそうになっている。


「……あんた、頭がいいのか、抜けてるのか、分からないわね……」

「え?」

 そこまで話して流那はひとつ「やれやれ」と首を横に振り、満面の笑顔で言った。


「……ねえ。なんで誰も、()()って言わないの?」


「「「え?」」」


「……私、今MP切れてるだけで、《魔力分与(マジックパサー)》してくれたら、またできると思うんだけど……」


「「「あ!」」」


 三人の声が夕焼けに染まった空に響き渡った。





「《魔力分与(マジックパサー)》……」

 マリンがバツが悪そうに流那に魔力を譲渡する。

「ありがと。《範囲回復(エリアヒール)》!」

 流那を中心に全員の傷と体力がみるみる回復していく。

 流那もゆっくりと立ち上がり、その場で足踏みをして全身の感覚を確かめる。


「あ〜……まだ少し血が足りない気がするけど、私普段から重いほうだし、二日目と比べたらまだ大したことないわね」

 そんな事を言って、さっきまで瀕死だった人がストレッチを始める様を見て、精霊たち三人は言葉を失っていた。


「ま! 終わりよければすべてよしよッ!」

 流那はそう言いながら近くの岩を《物質変換(マテリア)》でドーム状のテントに変えた。

「《箱庭(はこにわ)》までもう少しなんでしょ? ほら、ここで少し休んでから行きましょ? まだMP回復してないしねー」


 三人は言葉を失ったまま、流那に言われるままにテントの中に入る。

 ディーネとノーミーに関しては目がまだ点のままだ。



 四人は雑魚寝をしながら、戦いの疲れを癒していた。

「万理、起きてる?」

 これからのことを考えていたマリンに、流那の声が掛かる。

「うん。起きてるよ?」

「ちょっとこっち来なさい」

 マリンは何事かと流那が寝ている所まで歩いて行くと、突然流那の毛布に包まれた。


「ちょ、ちょっと流那? 何するの――」

「再会の喜びは後でって、さっき言ったわよね?」

 マリンの静止も聞かずに流那は毛布の中でマリンに抱きついた。

「はぁ……もう……」

 観念したマリンがそのままの姿勢で流那に囁く。

「……わかった。ごめんね、流那……辛い思いさせちゃったね……」

「……わかればいいのよ――」


 流那はマリンにしがみつき、声を殺して泣いていた。

 それをマリンは優しく抱きしめ、再び触れられた温もりに自然と涙が溢れた。


「……流那、ありがとう……ッ」

「こっちの台詞よッ……ありがとぅ……ッ……万理ぃぃッ……!」


 二人は再会の喜びで、離れていた時間の寂しさを埋め合わせるように、ゆっくりと今を噛みしめた――



(ねえディーネ? このあとどうなるのかしら?)

(しっ、知らねーし! とっとと寝ちゃえよ!)



 四人が仮眠から目を覚ますと、夜空には星々がその存在を競い合うかのようにひしめき、煌めいていた。


「みんな、体調はどう?」

 一番不調そうだった流那から、一番の大声が上がる。


「悪くないよ」

「大分よくなりましたわ」

「ま、ぼちぼち」


「なんだか元気ないわねー? これからとりあえず《箱庭》に向かうわけだけど、本来の目的の飛鳥(あすか)ちゃんとザコタ君たちの探索も付き合ってもらうからね?」

 流那のその言葉にディーネが真っ先に不平を言う。

「なんであたしらが〜……」

「なんでって、あんたが一番()()()()でしょ? ちょっとくらい手ぇ貸しなさいよ!」

「精霊使いが荒いですわルナ……」

「まあ、あれで本人は悪気があるわけじゃないから、大目に見てよ?」

 不満を溢す二人に、マリンがとりあえずのフォローを入れつつ、なんとかその場をやり過ごす。



 そんな何気ない会話をしながら、胸いっぱいの希望と、昼間の緊張を若干引きずりながら、一行は夜のダイタニアを歩いて行く。暫くすると――


「そうこうしてる内に見えてきたよ。って、あれ?」

 ディーネが前方に何かを見つけたらしく、目を凝らして暫し黙る。

「……なあノーミー、《箱庭》の前庭、かなり広くなってるぞ? それに、なんだありゃ?」

「何かありまして?」

 ノーミーの声にディーネが素っ気なく答える。

「なんかデカい電神が遊んでる」


 そのディーネの言葉に流那が食いつき、まくしたてる。

「え!? どこどこ? 誰かいたのッ!?」

「わッ! 離せよルナ! 掴まるなッ!」

「どんな電神がいたんだい?」

 流那とマリンから質問攻めにあい、ディーネは仕方なく答えた。


「デカい黒い電神と、普通サイズの黒い電神が戦ってる。あと、いくつか電神の残骸が転がってるな」

「黒い電神!? ザコタ君のかも!」

 流那はここまで来てようやく本来の目的を果たせるかも知れないことに浮かれた。


「待っててねみんな! 私たちが来たからにはもう大丈夫だからッ!」

【次回予告】


[流那]

私も覚えたてだから

つい忘れちゃうことあるけど、

智将万理!

討ち取ったりぃ〜!


次回!『超次元電神ダイタニア』!


 第八十一話「夜明け」


さあ、このまま行くわよ!





――――achievement[罪と未来]

※流那が《マリン》と再会を果たした。

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