第七十話「データの中の迷子」
泥濘に足を取られながらも深く湿った森を抜けると、そよの目の前に拡がっていたのは、白い大地だった――
「…………これって……」
今自分が踏みしめて来た獣道を振り返って見る。
定規で線を引いたかのように森と白い地面の境目がくっきりと分かれていた。そしてそれを“大地”と形容していいのかそよは迷った。地面と言うより、“背景テクスチャが無い”のだ。
「森が、ここで突然終わってる……。ダイタニアの、地面が消えちゃった?」
そよは辺りをキョロキョロ見回しながら不思議そうな顔でテクスチャの消えた地面を踏んだあと、ステップを刻んだりジャンプしたりしてその地面の感触を確かめた。
「地面はちゃんとある……。地面の模様? だけが消えちゃった?」
少しだけ考えたあと、自分の納得する答えに辿り着けなかったので、そよは考えることを一時中断し、また前に向かって歩き出した。
「でも、こうして歩けるんだから、何処かには辿り着けるよね? うーん……まずは、どうしよう?」
そよは歩みを止め、再び考え込む。が、また直ぐ顔を上げにこやかな笑顔で空を見上げる。
「……ここは、ダイタニア、なんだよね……。進一くんの、いない世界……」
陽に照らされた笑顔は白い光に飲まれる。太陽が雲間に隠れ、そよの顔から光が除かれると、その笑顔は今にも雨が降り出しそうなほど、曇っていた。
「……進一、くん……。地球で、生きてるんだよね? これで、よかったんだよ、ね? うぅ……ッ」
そよがその場に崩れ落ち、両膝を地に着ける。
声にならない嗚咽にそよの肩が小さく震える。
流れ落ちてくる涙を次々に掌で拭うも、ポロポロと真珠のような雫が溢れるのが止まらない。
「うぅ……ぁぃたぃ……あいたいよう……ぅッ……進一くん」
そよはザコタの幸せを心から願い、彼だけを安全圏へ脱出させた。それは今でも間違っていなかったと思っている。
大好きな人が助かって嬉しいはずなのに、何でこんなに涙が溢れ出すのか、今のそよには理解できなかった。
いっその事、また《召喚転移》でも唱えたらザコタが今この場に現れるんじゃないかとさえ考えたが、さすがにそれはそよも良心が痛んだので踏みとどまる。
ゆっくりと、仔鹿が立ち上がるようにゆっくりと、そよはまた両脚を地に着ける。が、また両膝から地面に崩れ落ちた。その顔は依然、涙に濡れたまま……
「進一くんのいない世界で、私は……生きるの?」
テクスチャが剥がれ掛けた壊れゆく世界を見つめながら、そよの言葉は虚空に消えた。
そして、そよが立ち上がれないまま蹲っていたその時――
『まだヒトがいたぞ!? 確保ッ!』
突然聴こえた機械音声にそよは振り向くと、自身に投擲された網に絡まり捕らえられてしまった。
「へッ!? なになに!?」
複数人の機械人―アンドール―がそよの下へやって来ると、一人がそよをその肩に担ぎ上げた。
『取りあえず《天照》様に報告しろ。これでこのエリアの住民はすべて捕獲し、データ化の準備が出来たと』
そよを担ぎながらメカニカルなデザインのビークルの下まで行くと、後部トランクに無造作にそよを下ろし、そのまま機械人たちはその場を走り去った。
「え? ちょっと待ってくださいー! どこへ行くんですか? 私は……行く場所なんて無いですけど……それでも行き先くらいは教えてくださいー」
網に絡まりモゴモゴ動きながら抗議をするそよに、頭上から機械人の詰まらなそうな声が落ちる。
『この近くの《祭壇》だよ。そこでお前も天照様にデータ化してもらい、退避させる』
『超次元電神ダイタニア』
第七十話「データの中の迷子」
その頃、リーオベルグと共にハイパーカミオカンデからダイタニアへと突入したザコタと飛鳥は――
「痛ってぇ……。おい! 大丈夫かセンパイっ!?」
「大丈夫じゃ、ないわよ……ッ!」
ザコタの声掛けに直ぐ飛鳥の不貞腐れたような声が返ってきた。それを聞いたザコタはホッとひと息つく。
周りは波が浅く押し寄せる砂浜。自分たちの隣の砂浜には大きな穴が空いていた。
「きっとこの砂とリーオベルグがクッションになってくれたのね……ありがと、リーオベルグ」
今はその姿を消した自分の電神に飛鳥はそっと礼を言い、混乱した頭で状況判断に努める。だが、その視線の先に既に歩き出していた人影が目についた。
「ちょっと迫田君! どこ行くのよ!?」
一人歩き出すザコタの背中に飛鳥の機嫌が悪くなった声が掛かる。ザコタは振り返りもせず、歩みも止めず、ただ自らの拳を握り込んで言った。
「決まってる。そよを探しに行く」
飛鳥は呆れ顔で一瞬言葉を失うが、自分も急ぎ足でその背中を追った。
「あのねえ!? そよさんが心配なの、勿論わかるわよ? でもまず先にやる事あるでしょ? 装備の確認だったり、現在地の確認、目的地だって――」
ザコタがその歩みを止めた。だが、振り向きもせずにザコタはその手に握っていた物を飛鳥に見せた。
「え? 何これ……そよさんとの、プリントシール?」
「そよもこの片割れを持っている。同一物から分かれた破片を探すスキル、知ってるだろ?」
それを聴いて飛鳥はハッとした。
「……『スカウト』の《欠片探し》……ダンジョンなんかで別れた複数の鍵を見つける時とか、有ると重宝するスキル、よね」
「そうだ。既に発動中だ。欠片が有る方向を俺に教えている……」
「えッ!? それってつまり――」
ザコタは飛鳥の驚きなど知らぬ素振りでまた歩き出す。今度は口角を上げながら。
「ああ。あいつは、生きている! 行くぞセンパイ! 俺について来いッ!」
ザコタは何やら口走りながら砂浜から丘の方へと駆け上っていく。
「来い来い来い来い……!」
走るザコタの目の前に見る見る召喚紋が形成されていく。
「来いッ! ケンオー!!」
ザコタがその召喚紋の横を走り抜けるのと同時にザコタの隣に球状のボディに両腕が生えた電神が顕現した。開いたハッチからザコタは瞬時にコクピットへと跳び乗る。
「センパイはさっきの戦いでMP切れ寸前だろ? ほら、掴まれ!」
「きゃっ!?」
ケンオーの伸ばした左腕が飛鳥の華奢な体を掴むとそのまま抱えるようにしてその場を飛び立った。
飛鳥はケンオーの腕の中で顔に掛かる髪を後ろに流し、やれやれと言った顔で独り言ちた。
「……まったく。こんなの、私だって彼氏欲しくなっちゃうじゃない……」
勢いよく飛び出したザコタだったが、元々魔法職でない彼のMPの上限はそう多くない。
ケンオーを五分ほど飛行させた後、自身もMPが枯渇し電神を降り、再び今こうして二人広大な草原を歩いていた。
「まったく、威勢だけはいいんだから」
「センパイだって戦士職だろ? MPの上限だって俺と変わらんだろうに……」
「そこは知恵と工夫でやり繰りするのよ。そういう所がゲームの面白い所でしょ?」
「ふん……。俺はもう“ゲーム”を遊んでいるつもりはないがな」
「私だってそうよ」
二人してブツクサと文句を言いながらも歩みは止めない。太陽の位置も高くなったこの大地に二人の会話だけが聞こえる。
「それにしても、あとどれくらいでそよさんの所に着くのよ?」
「知らん」
「はあッ!?」
「《欠片探し》は対象の方向は分かるが距離までは分からん」
「……そうだったわね。私、この世界で年取りたくないわよ?」
「…………」
珍しく自分の声掛けに反応が返ってこないザコタの横顔をのぞき込むように飛鳥が再び声を掛ける。
「ねえ、何とか言いなさいよ? こんな何もない道中、テキトーにダベってないと気が滅入るでしょ?」
ザコタは一つ小さなため息をつくと、歩みは緩めず飛鳥を横目で見る。
「意外と臆病なんだな、センパイ」
彼のその言葉に飛鳥のこめかみに青筋が浮き上がる。
「ハアっ!? 何言ってるの迫田君? 誰が臆病ですって?」
怒りをあらわにする飛鳥へザコタは一瞬立ち止まり、顔を前方に向けたまま、静かに言った。
「センパイ、さっき俺が“そよは生きてる”って言った時、心底ホッとしたような顔したよな? いつも俺には食って掛かってくるけど、本当は怖くて仕方がない。だから、喋ってないと落ち着かない」
「なッ……!」
飛鳥はザコタの指摘に思わず絶句した。だが、すぐにその口をへの字にして言い返そうとしたが――
「大丈夫だ、そよは絶対に救ける。センパイも手を貸してくれ」
再び歩き出したザコタの後ろ姿を飛鳥は見つめた。その背中越しに、彼の体が震えていることに気付き、彼女は何も言い返せなくなってしまった。
「また勝手な事言って……」
俯く彼女の口から洩れた言葉も、それを言った本人以外の耳に届くことは無いまま風に乗って消えていった。
「……そういうこと、言っちゃうところがガキだってのよ」
次第に辺りが薄暗くなる中、二人の視界に小さな家らしきものが見えた。
「おい、センパイよ……あれ、灯りだよな?」
「ええ、家ね。……でも、こんな更地に?」
ザコタと飛鳥はお互い顔を見合わせるとその家に向かって歩き出した。
そして、小さな家の前に着いた二人は明滅するランタンのかかる玄関ドアの前で立ち尽くす。
耳を澄ましても家の中からは何も聞こえてこない。二人は再度顔を見合わせ無言で頷く。
そしてザコタがそっとドアノブに手を掛けゆっくりと回した。
ドアは小さくギイと音を立てて開いた。中からは柔らかい明かりが漏れてくる。
「おい、誰か居るか……?」
ザコタの問い掛けに返事は無い。家の中はひっそりと静まり返り、人の気配は全く無い。
二人はさらに歩を進め玄関からリビングへと続く廊下を慎重に進んだ。ザコタの後ろから飛鳥が恐る恐るついて行く。
ザコタが曲がり角で立ち止まると、そぉーっと角の向こうを覗き込んだ。その視線の先には薄暗いキッチンがあるだけだった。
ザコタはその奥も慎重に見てみるが、やはり誰かが隠れている気配はないようだ。
「……ねえ、これ……」
飛鳥が何かに気付いたのか、キッチンを静かに指差しながらザコタに声を掛ける。ザコタが振り向くとそこには調理中の料理鍋があった。
まるでそこだけ、さっきまで人が生活していた時間が切り取られたかのように――
ザコタが鍋に手をかざすと
「なッ!?」
鍋が目の前から映像にノイズが混じったかのように消えた。飛鳥は思わず小さく息を呑む。
ザコタも一瞬言葉を失い、部屋に静寂だけが残る。
「ゲームの映像みたいに消えやがった……。どうなってるか分かるかセンパイ?」
そこでようやくザコタは飛鳥を一瞥すると、恐怖に身を震わせ口元を両手で押さえてる彼女がいた。
ザコタはため息を吐きながら、片手で頭の後ろを掻き、呟く。
「今日はここまでにするか……」
今夜の寝床として空き家を確保した二人だったが、飛鳥の不安は消えるはずもなく、まだこの家に対しての恐怖心に捕らわれていた。
「ねえ、ほんとにここに泊まるの? 絶対普通じゃないわよここ……」
ザコタは半ば呆れて軽く返す。
「そうかもな。でも、モンスターがいるかもしれない外で野宿する方がよっぽど危ねえよ」
「それはそうだけど、あんただって見たでしょ? さっきお鍋や火が一瞬で目の前から消えたの!?」
飛鳥はザコタの服の袖を強く引っ張りながら訴えた。
「……仕方ねえなあ。じゃあ俺が夜警してやる。ったく……」
「え〜……。絶対寝ないでよ?」
飛鳥は納得いかない顔ながらもしぶしぶ頷いた。それを見たザコタはランタンを床に置いて胡座をかく。
一頻りザコタも疲れていた。
地球でのシルフィたちとの戦闘からここまでずっと休みなしで来ている。それは飛鳥も同じだろう。
「ほら、これでも食べて、早く寝てくれ」
ザコタはここまで来る途中に採った樹の実を幾つかアイテムボックスから取り出して飛鳥に渡した。自分でも勢いよくそれに齧りつく。
そして食べながら飛鳥に自分の疑問を投げ掛けた。
「なあ、ここまで来る途中、人にもモンスターにもまったく遭わなかった。なんでだ?」
飛鳥も木実を一口齧ると、ザコタの疑問に答える。
「この地方には元々住んでなかったとか?」
「それも有るかもな。だけど、違和感がある……」
「違和感?」
「……この家の周り、何も無い。まるでこの家だけ残して消えちまったみたいに……」
ザコタは違和感に眉をひそめた。
「消えたって!? そんなことあるはず……最初からきっと更地だったのよ……」
「…………」
そこまで言って二人は少し黙って思考を再度巡らせる。
「……俺が思うに――」
「待って! あんたまた怖いこと言うのナシだからね!」
「あ? んなこと最初から言ってねえよ」
飛鳥は頭を抱えて項垂れた。
「ちょっと待ってよ〜……。そんなオカルト話、御免よお……」
飛鳥のボヤキにザコタは冷静なまま返す。
「オカルトじゃない。もっとシンプルでデジタルなことだ。このデータの世界の構造が崩れてきているとしたら?」
「あ! SANY!?」
話が噛み合ったと言わんばかりに二人は薄暗い部屋の中で顔を見合わせる。
「そうだ。でも、なんかおかしい……」
ザコタは周囲を見渡した。飛鳥も辺りを見回す。
説明できない違和感だけが積み重なる。
飛鳥はザコタのその言葉に考えを巡らす。
「そよさんが、もうSANYじゃなくなった、とか?」
「うーん……その辺は俺にも分からん」
その問いにもザコタは腕組みをしながらしかめ面で唸っていた。そして答える。
「……でも、そうであって欲しい。あいつは基本アホだからな。世界を管理するなんて似合わない」
「ふふっ、何それ。そよさんひどい言われよう……。そうだ! 風子ちゃんやほむらさんは? まひるさんちに戻ったのかな? 迫田君、何か知ってる?」
「ッ!!」
ザコタは彼女のその言葉に一瞬顔が強張った。
飛鳥はまだ知らなかったのだ。地球での戦いで既にまひるの四精霊が消滅したことを……
「……いや……」
「私、ほむらさんに先に行けって言われて来ちゃったけど、こっちには追ってきてくれてるのかな?」
「…………」
ザコタは今まで味わったことのない苦さの良心の呵責を感じていた。
真実をこのまま黙っていた方がよいのか、それとも――
ザコタ自身、事の成り行きを見たわけではなかったが、まひるの四精霊と自分がダイタニア出身の同じデータであるという感覚から、大体は事の事情が把握できてしまっていた。ザコタは言葉を飲み込む。
(本当は……ほむらたちは消えたかもしれない。だが、今は言えない……)
彼は口元を引き結び、視線を床に落としたまま答えた。
「そこまでは知らん。でも、そうならいいよな……」
ザコタは言えなかった。いや、言わなかった。
「そっか……。そうだよね! 風子ちゃんは《回復》使えるし、ほむらさんはフィジカルめちゃツヨだもんね!」
「ああ……」
(風子とほむらは消滅した……恐らく、万理も……。こいつはこの先、それを知らないままで、いいのか?)
ザコタは今日一日で今まで味わったことのない感情の渦に見舞われ複雑な心境でいた。
「ねえ、迫田君……」
「あ?」
飛鳥に呼ばれて我に返る。彼女は何か言いたげにザコタを見上げていた。
「私たち、無事に日本に帰れるかな?」
「……」
「だって、私ママに“絶対に帰る”って約束して来ちゃったから……」
飛鳥は不安げにザコタに尋ねた。だが、彼は彼女の質問には直ぐに答えられなかった。
なぜなら、ザコタにもその答えは持ち合わせていないから……
「じゃあ、絶対に帰らねーとな……」
ザコタは少し間を置きそう答えた。だが、自分の放ったその言葉にハッとなった。
(俺はただ単に怖いだけだ……。そよを絶対救けるって思う反面、救けられなかったらとも思っちまってる……)
「……そうだよね。帰らないと、ね」
飛鳥も彼の返事に一瞬戸惑ったが、そう自分に言い聞かせるように呟いた。
(俺も飛鳥も、相当疲れてる……)
「ほら、もう寝た寝た! 早く寝ないと朝になっちまうぜ?」
ザコタは立ち上がりながら飛鳥を急かした。
「わかったわよ。じゃあ私はこっちの隅で休むから、迫田君は夜警も兼ねて玄関付近で休んで」
「へいへい」
ザコタは夜警のため玄関前に座ったが、目は閉じられなかった。遠くに風に揺れる木の葉の音を聴く。
彼の頭の中で、消えた街や不在の精霊たちの姿がちらつく。
飛鳥も床に横たわるが、目を閉じることができず、天井を見上げたまま小さく息を吐く。
「……本当に大丈夫かな……風子ちゃん……」
独り言ちる彼女の声が徐々に小さくなり聞こえなくなった時、ザコタも“夜警終了”と自分に言い聞かせ、深い眠りへと落ちていった。
翌朝、二人は気持ちの良い朝陽の光で目を覚ますことにはならず、けたたましい車輪の駆動音に起こされることとなった。
「な、何ッ!?」
飛鳥は飛び起き、咄嗟に辺りを見回す。すると一台の厳ついビークルがこちらへ向かって走ってくるのが見えた。
「あれは……!」
ザコタも飛び起き、飛鳥と肩を並べた。装甲車は家の前で止まり、運転席からは軍服のような服を着た機械人が降りてきた。
『天照様でも一軒だけデータ化し忘れることなんてあるのか? おい、取りあえず報告してくれ』
一機の機械人が同乗していた機械人に指示をし、その足で二人が潜む家へと近づいてきた。
ザコタと飛鳥は小声で話し合う。
「あれ、アンドールだよな? 何だか知らんが話が訊けそうだ」
「ちょっと、待ちなさいよ。まだ私たちに友好的か分からないでしょ? もう少し様子を観て――」
飛鳥が言葉を最後まで言い切る前にそれは起こった。
今まで家の中に居たと思っていたのに、次の瞬間には二人は外に居た。
「なッ!?」
「えぇッ!?」
二人の驚きの声が重なる。二人が慌てて周りを見渡すと、その異変にすぐに気付かされた。
二人が外に移動したのではなく、さっきまで居た家が消えてしまっていたのだ。
外気のひんやりした感触が、二人にここが外であることを実感させる。
『ん!? ヒトが二人! 消し忘れた家に残っていたのか……』
機械人は尚も二人との距離を詰めながら話しかけてきた。
『おい。ここら辺は退避区画だ。近くには崩落の始まっている所もある。お前たちも直ちに避難を――』
「……いきなり襲ってくる感じではないわね」
「ああ。でも油断するなよ。いつでも武器を出せるようにしておけ……」
ザコタの言葉に飛鳥は小さく頷くと、一歩前に出て機械人に声をかけた。
「私たち、ちょっと道に迷っちゃって……ここはどこですか?」
『なんだ? 退避勧告を知らずにこんな所にいたのか?』
機械人は一旦足を止めると、肩を竦めてみせた。
「退避勧告?」
今度はザコタがさり気なく問う。
「そうだ。この世界は今崩壊の危機にある。お前たちも知ってるだろう?
創造主《天照》様が今この地に生きる生物たちを一時的にデータ化して保管して回っている。生物じゃないって理由だけで俺たち《アンドール》ばかりこき使われてよぉ……」
目の前の機械人は愚痴りながら、やれやれと再び肩を竦めた。
(天照……。聞いたことがあるような……?)
(風待の大学にあったスパコンが、確か《天照》だ……)
二人は小声で情報共有しながら、お互いの気持ちがシンクロするのを感じた。
今、目の前にいるこの機械人から可能な限り情報を引き出してやろう、と。
「あ、あの……私たちもデータ化されちゃうんですか?」
飛鳥は真意を悟られないよう恐る恐る尋ねた。
『そうだな。特に急な用事がないのなら、その方が安全だぞ? 今日だって既にお前たちのような奴を保管したんだ。結構大変なんだぜ? あちこち回ってよぉ』
その言葉に真っ先にザコタが食いついた。
「俺たちの他に、人を見かけたのか!?」
『ああ。あの女は迷子みたいな感じだったけど、なんかよく分からん騒がしい奴だったな』
ザコタは逸る気持ちを僅かばかりの理性で抑えながら続ける。
「そいつは、ヒョロっとしてて髪が短い深緑色の若い女、か……?」
『ああ、そうそう。少しアホっぽい女だったな』
「アホっぽいは余計だ」
『ん?』
「いや、なんでもない……」
その時、ビークルの方からもう一機の機械人から声が掛かる。
『おい! いつまでくっちゃべってやがる! とっとと保管して次行こうぜ!?』
目の前の機械人はハッとすると、ビークルの方へ視線を向けた。
『お、おう! じゃあ、お前たちも天照様にデータ化してもらえる場所に移すぞ? あの車に乗りな』
そう言ってビークルの方に親指をクイと向ける。
ザコタは飛鳥の顔を見ると、飛鳥が無言で小さく頷く。その顔は目標を見定め、覚悟を決めた顔をしていた。
「一つ訊きたい。データ化してもらう人間はどこに連れてかれるんだ?」
『この先の《祭壇》さ。そこなら天照様の力が直接受けられるし、電神の警護もあるから安全にデータ化してもらえる』
「先に捕らえた奴も、そこに?」
『捕らえたって言うと人聞きが悪いけど、まあそうだ。今のところ、さっき保管した女しかいないから、一緒に直ぐにデータ化してもらえると思うぜ?』
そこまで聴くと、ザコタは自ら車高のあるビークルへと上がり、後部座席に両腕を組み、ドンと構えて座った。飛鳥もおとなしく後について座席に座る。
「さあ、車を出してくれ。なるべく急いでな!」
【次回予告】
[ザコタ]
とっくに捨てたと思っていた
そよのシール……
何故か、まだあっただけだ
次回!『超次元電神ダイタニア』!
第七十一話「心の旅路」
……そよ……待ってろ……ッ!




