第六十六話「その名はダイタニア」
「これが、あなたの新たな力です……ッ!」
シルフィのその言葉にあたしは一瞬呆けるも、すぐに気を取り直して《バリオスの門》の中から出てきた電神に向き直る。
「これが……あたしの新しい力……」
あたしは自分に与えられたと言うこの力をまだ十分に理解できていないし、そもそも使えるかどうかさえわからない。
でもシルフィが頑張って用意してくれたんだ。だからあたしは彼女のその言葉を信じようと思う。そして、自分の可能性を!
白い電神はあたしたちの前に片膝を着くと「乗って」と言わんばかりに胸部のコクピットハッチを開けてくれた。
あたしはシルフィと風待さんの顔を交互に見つめる。
「君の想いが形に成ったんだと想う。さあ…」
「まひるさん、行ってください。きっとその力がサラや私たちの願いを届けてくれます!」
「風待さん……シルフィ……うんっ!」
あたしは大きく頷くと、開かれたコクピットハッチに飛び乗った。
中は意外と広い空間でモニターなどが設置されているコンソールがあるだけだった。そして、意外なことにシートが複座型だった。
「これって……。シルフィっ!」
あたしは考えるより先に言葉が口から出ていた。
「来て! あなたも一緒に!」
あたしの突然の申し出にシルフィは一瞬驚いたようだったが、やがて満面の笑顔を見せ「はい!」と大きな声で応えた。
そしてあたしの後ろの副座に着くとそそくさとシートベルトを着け、笑みを隠せないまま後部レバーに両手を添えた。
「必ず私たちの力でここから抜け出しましょう!」
「うん! 行こうッ!」
あたしは左手でコンソールを操作する。モニターのスイッチを入れるとそこには既に幾つかの項目があり、あたしはそれを手早くタッチしていった。すると最後に『ENTRY?』という表示が現れたので迷わず《YES》を選択した。
いつものゲーム内の操作パネルと似ていて何となく感覚的に操作は出来そうだ。
『Please enter the name of this Denjin』
今度はモニターから電神の名前の入力を求められた。それを見て後ろからシルフィが声を掛けてきた。
「やはり、《アウマフ》ですか?」
あたしは今は無きその名の電神に思いを馳せ目を瞑る。そしてそっと首を横に振った。
「ううん……。アウマフはあの子たち四人が居て初めてその名になるの……」
そう口にすると何故か口元には笑みが浮かんだ。あたしは続けて言う。
「ねえシルフィ? あたしが『ダイタニア』で最後の四人目に会うまで使っていた電神の名前があるの。何だか分かる?」
「さ、さあ…? 少し、漠然とし過ぎていて、分かりかねますね」
そんなあたしの無茶振りな質問にも彼女は真面目に答えてくれる。
「ふふっ。あたしの最初の電神の名前はね、《ダイタニア》っていうの」
そう言うとあたしはコンソールを操作して『Ditania』と入力を完了させた。そして……
「またこの子をそう呼びたい! 《ダイタニア》!」
そう声高に叫ぶとモニター上には『COMPLETE!』の表示が現れたのだった。胸の奥から熱いものが込み上げる。
同時にコクピット内も明るく照らされ、電神全体に動力エネルギーが血液のように流れていくのを感じた。脚の底から低い唸りを上げ、圧倒的な力が目覚めていくかのような、得体の知れない存在感を漂わせる。
「まひるさん……っ」
(ネーミング、ひねり無いですね)と、シルフィは口が裂けても言わなかったが、代わりに感極まったような声を上げた。
(でも、不思議とその名前がしっくり来る気がしますね……)
『超次元電神ダイタニア』
第六十六話「その名はダイタニア」
あたしとシルフィは真っ直ぐ前を見据え、迫りくる電神群を睨み返す。
「これが、あたしたちの新しい力、行くよ! よろしくね《ダイタニア》!」
あたしはダイタニアを起き上がらせると、一番手前の電神に対して半身に構える。
「えーと、武器、武器はー…」
あたしは何か武装は無いのかとコンソールパネルをタッチして武器を探す。
「シルフィ、あの電神たちから生体反応があるか分かる?」
あたしはずっと気になっていたことをシルフィに訊きながら忙しく武器を探し続ける。
「……いえ。やはり生体反応は感じられません。無人機ですね。これもAIが操作しているのでしょうか」
「オッケ! それが分かれば大丈夫、シルフィありがとう! 武器スキル在った! 今モニターに一覧で出すね!」
あたしは武装一覧を表示させるコマンドを入力した。すると――
[Left] [Center] [Right]
BeamDagger BeamDagger
Shield Shield
ShortSword ShortSword
BoomerangCutter
ChainSword
LongBusterCanon
眼前のモニターに次々とこのダイタニアに搭載されているだろう武器が表示されていく。
「わ! すごいすごい! いっぱいスキルがあるよシルフィ!」
あたしはその搭載されている武器の多さに安堵を覚えながらはしゃいでシルフィに声を掛ける。だが――
そのモニターに映し出される武装の表示の流れが一向に止まらない。
「……え? え!?」
何という膨大な数の兵器が搭載されているのだろう。あたしはその表示の流れを途中から目で追えなくなり、逆にこのダイタニアに恐怖心を抱き始めた。
「ねえシルフィ……これって?」
あたしは青ざめた顔で後ろを振り向きシルフィに助けを求めるような視線を送った。
「どうやらこのダイタニア、搭載されている武器の量だけなら一騎で一国を相手に出来そうなくらい充実していますね。あとは……」
(優しいまひるさんが、それらをどこまで使えるのか、ですが……)
……これを、あたしが……
モニターに映し出されるその大量の武装を見つめながら、あたしの胸に冷たい戦慄が走った。
これは――あたしの理想とは違う。
優しさだけでは届かない現実が、形を持って立ちはだかっている。
「……でも、あなたを喚んだのはあたしたちだ。逃げない!」
そう告げた瞬間、白い巨体が応えるように咆哮し、地を震わせた。
あたしが決意を固める間に一機の電神が眼前に迫って来ていた。下から風待さんが「注意しろ!」と叫んでいるのが聞こえる。
「わわッ! 何か近接武器をッ!」
「まひるさん! まず相手の攻撃をかわしましょうッ!」
あたしの恐怖心と焦燥がシルフィの冷静な闘争心とリンクする。
すると、ダイタニアはそれを感知したのか下半身を屈めて相手の右正拳突きを難なくかわした。
今度は屈めた体勢を伸ばす反動で自らの左腕を真っ直ぐ伸ばし、その貫手は相手の頭部を鋭く突き抜け完全に破壊した。
「ひッ!」
あたしは突然の出来事に小さな悲鳴を上げてしまう。
オートバランサーとオート回避、オート攻撃が全て同時に入力されたかのような、今まで味わったことのない鮮烈な破壊行為があたしを戦慄させた。
「このダイタニアの指先、とても鋭利な形状をしていますね。これだけでも十分武器になります……」
シルフィが相変わらず冷静に分析しているが、その声はいつもより少し震えているように感じられた。
「……まひるさん、思ったよりこのダイタニアのポテンシャルは高いようです。……やれそうですか?」
あたしはダイタニアが一撃で目の前の電神を屠る様を見ながら、それでも彼女のその言葉に頷く。
「うん……大丈夫。やれる!」
そう意気込み返したあたしの脳裏には一緒に帰りたいみんなの笑顔がハッキリと浮かんでいた。
(みんな、待っててね! 絶対にまた会うんだから!)
あたしはモニターに表示された武器スキルの中から《BeamDagger》を選択し、そのコマンドを入力する。
すると、左右の円盤状した腰部アーマーが外れ、手のひらの中で展開し短刀の持ち手のような形状に変形した。
ダイタニアの両手にそれぞれ持たせると、その短刀の柄の先にピンク色した光の刃が発生した。
それをすかさず向かって来ていた二機の電神へと全力で投擲する。
ビームダガーはロックオン機能でも付いているのか、二機の電神の頭部をそれぞれ破壊し、沈黙させ、またアーマーの形状へと戻り元あった腰部へと再装着された。
「まひるさん、残りの電神、十五機を切りました。このダイタニアなら切り抜けられそうです! こちらから打って出ましょう!」
シルフィがそう鼓舞してモニターに映る電神群を見据える。
「う、うん!」
あたしも釣られてコンソールパネルを操作し《Shield》、《ShortSword》と同時に入力する。
すると、今度はダイタニアの右前腕装甲が外れ、その形状を大きく変えてシールドが現れた。
左手でその盾を持ち、盾の上部にある柄を引き抜くとそこからスラリとショートソードが姿を現す。この盾はどうやら剣の鞘にもなっているらしい。
右手に小剣を構え、オーソドックスな剣撃スタイルへと移行する。
「さあ、征きましょう! まひるさん!」
シルフィがそう叫ぶと電神ダイタニアもそれに呼応するように地を蹴り、その身を前へと躍らせたのだった。
あたしは向かって来る電神を見据える。そして――
「やあぁッ!」
ショートソードで一機を袈裟切りに斬りつけ、返す刀でもう一機を突き飛ばす。更には盾で二機の頭部を同時に殴打し、そのまま剣の柄で叩き伏せた。
「す、すごいな……あそこまで動けるのか、相川さん……」
風待さんが呆然とその様を見て感嘆の声を漏らす。どうやら風待さんの周りには幸いにも脅威となるものは今はいないようだった。
あたしは後方モニター越しから見えたシルフィに笑顔を向けた。彼女もまたそれに笑顔で応えてくれる。
「 いけます、このダイタニアなら!」
シルフィが珍しく興奮気味な声を上げると続けて言った。
「まひるさん! この電神の魔力供給は私に任せて、もうひと踏ん張りです!」
その言葉にあたしも更に気勢を上げて応えたかったのだが――
そんなあたしを嘲笑うかのように、突然背後から衝撃が走る。
「ひゃうっ!?」
その衝撃でダイタニアの脚は止まり、あたしは情けない声を上げて前へとつんのめった。
「大丈夫ですか!? まひるさん!」
シルフィが心配そうな声を上げると、あたしはすぐに顔を上げて応えた。
「うん! シールドは潰されちゃったけど、オートガードで守ってくれたみたい」
あたしは直ぐ様ダイタニアを背後から攻撃した相手に正対させる。そこには大斧を携えた如何にも堅そうで重厚な電神が仁王立ちしていた。
あたしはショートソードで立ち向かうもその装甲に弾かれてしまい致命傷を与えることが出来ない。
ダイタニアがショートソードを投げ捨てると同時にその電神は大斧を振り下ろしてきた。咄嗟に次の武装スキルを入力する!
相手の大斧はダイタニアを砕くことなく、機体に触れる既のところでその攻撃の動きを止められた。
《ChainSword》……! 大斧はダイタニアの両手に握られた大剣によって鍔迫り合っていた。まさに火花を散らして!
大剣の刃に組み込まれた鎖状の刃が高速回転し、大斧を裁断しようと火花を散らしているのだ。その姿と音はまさしくチェーンソー。
ギリギリと火花を盛大に散らしながら大斧に食い込んでいく大剣の刃。無惨にも大斧は二つに断たれ、大剣はそのまま電神をも両断してしまった。あたしはまた、その力の強大さに言葉と共に唾を飲み込む。
「一気に数を減らしましょう! まひるさん、これなんて如何でしょう?」
シルフィが選んだそれはあたしも気になっていた武装のひとつ。何と言っても昔ながらのロボットアニメにありそうなスキルだったから。
ダイタニアは自らの額にあるV字の装飾に手を掛けると、それを外し電神の群へと大きく振りかぶって、あたしの叫びと共に投げつけた。
「ブゥーメランっ、カッタァァァーっ!!」
形状を大きく、鋭く変形させたその額飾りはまるで巨大なブーメランのように次々と立ち並ぶ電神たちの首を滑らかに跳ねていき、何事も無かったかのようにダイタニアの手中に戻ると、再び額の装飾へと形状を変えた。
「来ます、まひるさんッ! 一時、四時七時、十時の方向ッ! 囲まれた!?」
シルフィにしては焦っている様だったが、あたしはその方向を見ずにダイタニアのモニターに次々とコマンドを入力していく。
「大丈夫ッ!」
彼女にそう応えながらもあたしの指は止まらない。
多勢に無勢という絶望的状況があたしの今この子から感じられる恐怖心を上手く麻痺させてくれている。
モニターには数々の兵装が映し出され、間違いが起こらないようその特性の注釈を読みながら取捨選択していく。
目と指と脳の並列作業。
普段から伊達に経理の事務処理をしてないの! このくらいの作業量、月末の忙しさに比べたらなんて事ないんだから!
向かってくる全ての電神に対してモニター内でロックオンマーカーが付いたことをゲーム内と同じSEが教えてくれる。
ダイタニアの肩部と胸部にある六つの大きなダクトにエメラルドグリーン色した魔力の粒子が集束されていく。
あたしはモニターに映し出された発射キーを力の限りスワイプしながら叫んだ。
「OLをなめないでよねッ! 《レイクライシス》っ!!」
鋭い発射音と共にダイタニアの全てのダクトから無数の緑色のレーザーが発射された。一度は直線的に発射されたレーザーだったが、その軌道は弧を描きロックオンした電神の頭部へと鈍い音を立てながら次々と着弾していく。
四方囲まれた窮地を一瞬で打破してしまったあたしを後部座席から見ていたシルフィが感嘆の溜息を漏らす。
「す、すごい……まひるさん……」
その声色は何故か少しウットリしていた。
残る電神は後方のサニーを騙る《天照》が乗る電神を取り囲む六機のみ。
あたしはダイタニアの脚部スラスターを最大限蒸し、急速にその距離を詰める。地下ダンジョンの地面を削り、砂塵を巻き上げながらダイタニアはそのままの勢いでその六機の中に突っ込んだ。
『中々やるじゃない、流石はプレイヤー、電神の扱いには慣れているようね?』
強がりには聞こえない余裕を含んだサニーの声が聞こえた。
だけど、今は戦闘中で、振り下ろされる攻撃をかわすことにまず専念させて貰おう。
自分に向けて振り下ろされる力の恐怖に、更に強大な恐怖を持ってあたしは対抗する。
二本のビームダガーを逆手に持ち、まず目の前の電神の頭部をかち上げながら右手のダガーで斬り破壊する。
右から突っ込んできた相手には左手のダガーの出力を上げ、ビームの刃を伸ばし胸部から上下に両断。
正面の電神には返す刀で両方の刃を深く埋め込ませ、背後からビームアックスを振り下ろしてきた相手には両肘を鋭く変形させた《エルボースピアー》を後ろに突き付け串刺す。
何故か上空から飛び掛かってきた最後の一機にはそのまま尖ったデザインの頭部を硬化させた《ヘラクレスホーン》を置いてあげる。
頭部衝角に串刺しになり動かなくなった電神をダイタニアは首を振って払い落とす。
あたしたちはようやく一機だけになったサニーの電神へ静かに視線を戻した。
「…これで話が聴けるかな? あなたがスーパーコンピューターの《天照》?」
ダイタニアのカメラアイ越しに、あたしはサニーの電神を見据える。彼女は私たちを見上げ、静かに口を開いた。
『そうよ。わたしがこの世界の統括AI《天照》。あなた、ここまでやっておいて、よくも話を聴くだなんて言えたものね』
「あたしもこんなにやるとは思ってなかった……。でも、何もしなかったらあの時みたいに誰も守れないって思ったから……。この子の力が、破壊を象徴する力だったとしても、それをあたしは誰かを守る為に使いたい」
あたしはダイタニアに乗りながら、常に恐怖に怯えていた。
でもその恐怖を振り払ったのは――もう一度会いたいと願う、みんなの顔。
――あたしは、誰かのためなら力を行使してでも戦えるんだ。今回の件で、そう思い知らされた。
『……あなた、名前は?』
唐突に天照はあたしの名前を聴いてきた。
「……相川、まひる」
『そう……まひる。ん? まひる? あなたのプレイヤー名はもしかして《サニー》?』
天照はあたしのゲーム内名まで知っている。
「え? う、うん。そうだけど?」
『そう、あなたが……。一応姿を見せておこうかしら』
あたしの名前を確かめた天照はどこか楽しげにそんなことを言うと、あたしたち乗るダイタニアの前にホログラム映像を映し出した。あたしはその姿を見て仰天する。
『ハロー、あなたのアバターの姿ちょっと拝借してるわよ』
目の前に現れたのはゲーム内であたしが使っているエルフっ娘、《Sunny》のアバター姿だった!
「ちょっ! それ、あたしのッ!?」
『固いこと言わないでよ〜。《サニー》で検索したら偶々引っ掛かったのがこの姿だったんだから。姿はコレだけど名前はあなたたちが言うように《天照》でいいわ。口調だって元の口調に引っ張られちゃって。あなた、割りとゲーム内じゃ砕けた話し方なのね?』
「ゔッ!」
ホログラム映像に映る《天照》は両手をヒラヒラさせながら悪びれる様子もなくそう言った。
あたしは彼女のその指摘による羞恥で耳まで赤くなる。
『まあ、とりあえずゲーム内での名前で呼び合ってるとややこしいから、こっちの世界ではあなたのことまひるって呼ばせて貰うわね?』
「あ、うん……それはいいけど、サニーの姿で悪い事して欲しくないかなぁ」
あたしがそう応えると天照は戯けるように言う。
『悪い事? そんなことしてないわ』
「え? だってダイタニアの人たちを捕らえたりして労働力にしたりしてるんでしょ?」
サニーの姿をした天照はあどけない笑みを浮かべて、両手をひらひらさせた。
『違うわ〜。ここにいる人々はね、危険な地域にいたから一時的にデータとして保護しただけ。マスターデータはちゃんと残してあるし、安心して』
「……データって、どういうこと?」
『あなたたちだって、このダイタニアという世界に来ている時点で三次元の生命とは存在の理が違うでしょ? ここにいる皆も同じよ。命として扱われるけど、仕組みとしてはわたしの管理下にある“データ”ってだけ』
「……それって、なんだか怖いよ」
あたしの胸はざわついた。だけど、抗うように言葉を紡ぐ。
「あなたもまた、誰かの“願い”で生まれたんじゃない?」
『ふふ、さあね。気付いたらここにいて、この世界を管理していた――それだけのことよ……』
その冷めた言葉にあたしは言葉を失う。沈黙を破るように、天照はまっすぐに告げた。
『まひる、優しさだけじゃ何も変えられない。力なき正義は、無力なのよ』
「……でも、力だけじゃ誰も笑えない。ウィンドやシルフィがくれたのは力じゃなくて“願い”だったんだ」
『願いで世界が変わるとでも?』
「ううん……救えるかなんて分からない。でも、願わなきゃ始まらない。だからあたしは信じて、一歩を踏み出す――」
『わたしも同じよ。信じるものがあるから、続けられる』
天照の声には、どこかいたずらっぽさと冷淡さが混じっていた。けれど、まひるにはその言葉がまっすぐに届く。
「それじゃ、あなたがこの世界を救いたいって言うのは、本当に――」
「騙されるなよ相川さんッ!」
あたしのその言葉に被せるように風待さんの怒りに満ちた声が響いた。彼は天照を見据えて続ける。
「そこの出来損ないAI! お前はただ単にこの世界を存続させたいだけだろう? そこに住む人々や生き物がプログラムされたデータだったとしても、蔑ろに扱っていいわけがない!」
風待さんの言葉に天照は小首を傾げ、まるで無邪気な子どものような目をして言った。
『ほんと、君とは話が合わないなあ……』
あどけなささえ感じるその冷めた表情にあたしは悪寒を感じる。このAIは感情のようなものなど持ち合わせていないのかもしれないと思わせるほどに。
でも、今彼女が口にした言葉も全てデータで出来ているのであれば――
「お前は今ここで倒しておく必要がありそうだ。相川さん、あいつの電神ごと破壊するんだ!」
風待さんは天照乗る電神を指さしそう言ってきた。
「待って! まだ、何か話が――」
『もういいわよ。あなたたちはここで見てなさい。わたしが再びダイタニアを修復し、構築する様をね』
天照はそう言うと薄い笑顔だけ残し、ホログラム映像から姿を消した。
あたしはその行動を見て確信する。やはり彼女はこの世界に住む人たちのことを生命として認識していない。
天照は電神の背中に翼を展開させ、宙空へ向けて飛翔する。あのままではレーザーによって空けられた天上の大穴から逃げられてしまうだろう。
「やっぱり、あなたは……ここで倒すよ……」
あたしはダイタニアを天照が乗る電神へと向ける。風待さんはそんなあたしの行動に驚きながらも声を掛けてきた。
「済まない相川さん。俺の……後始末を、お願いする」
「風待さん、彼女の存在自体も地球にある《天照》内のプログラムなんですよね? 本当の人じゃないんですよねえッ!?」
「ああ……その通りだ……」
そんなやりとりをしながらあたしは複雑な思いのままダイタニアの背中のバックパックに指令を送る。
――《LongBusterCanon》……Get set !
バックパックが蠢き、別の形に変形していく。あたしはもうすぐ天上に届きそうになっている天照の電神を仰ぎ見る。
モニターの表示が『Ready !』に変わるとダイタニアの右腕には背中から動力ケーブルが伸び、砲身が三〇メートルはあろうかという長距離砲が抱えられていた。
あたしは砲身の上部の持ち手を左手で掴み、両腕でその巨大な砲口を天照へと向けた。
……この引き金を引いたら、もう戻れない――
「……シルフィ、あたしは間違ってるよね?」
「いえ、まひるさんは間違っていません……」
あたしはシルフィの言葉にそっと目を瞑り、天照の電神へロックオン指示を出す。
「うん……シルフィは優しいね」
瞑目したシルフィの優しい声と奥歯を噛み締めるその姿が、あたしを少しだけ安心させる。
「風待さん、下がって! いきます!」
ダイタニアの足元から瞬時に距離をとる風待さんを確認し、あたしはその地面を確かめるようにダイタニアを踏ん張らせる。
「ロングバスターキャノンっ! てえぇーーーッ!!」
――ほんの一瞬、全ての音は消え、世界が止まった気がした。
直後、火山が噴火したような砲身から高出力のビームが爆音と共に天照へ向け放たれた。砲撃の反動でダイタニアは地面を削りながら後退するも、再度脚に重心を加え何とか踏ん張らせる。
『え?』
天照は振り返る間もなく、電神もろとも大出力のエネルギーの光の中に消えた。
大砲の光はそのまま天上を貫き、ダンジョンの外の空にある雲まで穴を空け、消えていった。僅かな静寂のあと、遅れて大気が悲鳴を上げた。
「これで……よかったんだよね……?」
あたしはダイタニアの中で天上から覗いた空を注視する。
巨大な砲塔は何事も無かったかのように元のバックパックへと形状を変えながら戻っていった。
後ろの座席を振り返るとあたしと目が合ったシルフィは何とも言えない苦い顔をしていた。
(私は、まひるさんにこんな顔をさせたくなかった……もっと、強くなりたい……。この人の心も守れるくらい、もっと……)
あたしは気付くとシルフィに抱きついて涙を流していた。
この涙は、何の涙なんだろう?
自分でも自分の流す涙の意味が解らないことがあるって、初めて知ったんだ――
空いた天上から差し込む陽の光だけが、優しくダイタニアを白く輝かせてくれていた。
【次回予告】
[まひる]
あたしの心にしこりを残したまま
天照との戦いは幕を下ろした
これから先のことを考えようとした矢先
また事態は急変する……
次回!『超次元電神ダイタニア』!
第六十七話「導く追い風」
…え?
――――achievement[新たな力]
※まひるが新しい《電神》に搭乗した。
――――achievement[セーフティ解除]
※まひるが《ダイタニア》の武装を使用した。
――――achievement[ウェポンセレクト]
※まひるが《ダイタニア》の武装を三種類使用した。
――――achievement[武器庫]
※まひるが《ダイタニア》の武装を十種類使用した。
――――achievement[トリプルバスター]
※一度の攻撃で《電神》を三機倒す。
――――achievement[一騎当千]
※一度の《電神》召喚で敵《電神》を十機倒す。
――――achievement[LBC]
※まひるが《ダイタニア》の《ロングバスターキャノン》を使用した。




