24話
いらっしゃいませ
「その、本当に稽古というかあの……」
「やってもらおうと思う、せめて逃げるだけの事は自分でできるようにして欲しいから」
ラニャが宿屋のベッドの上に座る。
「明日だっけ?」
その隣に座る様に促され素直に座る。
「うん、依頼人とその馬車をこの前みたいに守れば大丈夫、……それとあれ、教えて欲しい」
「どれ?」
「戦い方、前のチームでは…その、あんまり戦闘経験なくて」
「ちょっとした事なら話せるよ」
真夜中ではないけど、もうすっかり夜になっている。寝る前の相談というか愚痴なんだろうか。
「…分かりやすくね?」
「人には向き不向きってのがある」
「うん」
「でも、絶対に出来なきゃならないのがある」
「…何?」
「相手の武器の理解と地形の把握と相手の狙いの推察だ」
「確かに必要なのは分かるけど、どうすればいいの?」
「この中で一番必要なのは地形の把握だな、待ち伏せや相手の接近を予測したり逃れたりできるので一番重要だ」
「えっと、……」
ラニャが微かに困惑の色を見せる。
「次に大切なのは相手の武器の理解だな、例えば大剣で、重い鎧を着込んでる場合、1番勝率の高い動きってなんだと思う?」
「……火属性の魔法での牽制と長期戦」
「…そうだね」
「じゃ、じゃあ軽視してはいけない事を一つ」
「ん?」
「体力と持久力」
「…軽視はしてないけど」
「使い方だね、戦闘継続能力に関する体力と持久力とは別の戦闘に直接関与しない戦闘直後迄の体力と持久力、或いは戦闘を避ける為の体力と持久力のことだ」
「それも…一応重視してるけど」
「単純に山道を長時間歩いたり走ったり、痕跡を探したり隠したり、地形を確認して逃走経路の設定と逃走中の敵対者含めた遭遇や奇襲戦闘の回避、迂回を休憩せずに実行し続ける体力と持久力のことだ」
「…ちゃんと逃げ道は考えて動いてるよ」
「その考え通りに敗走した自分が動けるか?」
「分かんない」
「体力と持久力が安全地帯の代わりだと思った方がいいよ」
「安全地帯の確保が出来ない時は体力と持久力が安全を担保して…くれるのかしら?」
ラニャが手を伸ばして目の前にあるコップに水を注ぐとそのまま一気に飲む。
「そうだよ」
ラニャに倣って同じようにコップに水を注いで口を潤すとラニャが深いため息を吐く。
「なるほどね」
理解を示したラニャがさっさと横になる。
「え?まって、体力と持久力とは別に大前提とすべきなのは、自分の身の丈に合った戦い方と自己評価とか…」
無視、起きてるが無視された。
「光消すよ、…おやすみ?」
「おやすみ…?」
なぜ急に話を切り上げたのか分からなかった。
ラニャに誤解が無いかと心配する。
基本、戦闘は奇襲側に有利である。
戦闘の有利不利は情報戦に一先ず勝利するかで決まる。
情報戦の勝利の最低条件は、敵の早期発見と推定戦力、敵の状態の見積もりを敵より先に終え、味方に見積もりであると周知させた上で情報の共有を完了すること。そして敵の予想外の行動で味方が混乱する事がない様にそれすらも想定する事。或いは逃げの一手を即座に打てる状況をいつの時も用意すること。(敗走戦)
情報戦は先手を制する布石である。
理想論をどれほど現実に再現できるかで勝利の行方は大きく傾く。
いわゆる〈相手の土俵に立つな〉〈自分の土俵で戦え〉である。奇襲は相手の土俵を破壊する効果を高く期待できるのである。それらを現実にするのに体力や持久力、地形や相手の武器を考慮した上での戦闘と膠着状態となった場合の継続するか否かを刹那の間に決断する力が必要である。但し判断には勇ましさが不可欠であり、不利を押し切る事例は数え切れないほど存在している(大抵は不利なまま押し切られる)。
なので、優位を築き上げていようと退路を維持する必要性は言うまでもない。
お疲れ様でした。




