23話(番外のようなもの
いらっしゃいませ。
23話のヤック視点です。
ーチャリン
公平性を保つ為に受付の人に戦闘開始の合図を出してもらう。
「ヤック!」ファクラの叫び声に応え、フィニュの唱える魔法詠唱を雄叫びで掻き消しながら、距離を詰め、剣の間合い直前で振りかぶる大剣を面で振り落とし砂煙を上げる。
スレイブの反撃を誘い、一瞬の間を置いてスレイブの右に偏った重心とは反対方向に飛んでみせる。
定石の反応は、即座に間合いを詰めてくるか、警戒してその場に留まるかの二つだったが、スレイブはその何方の選択も放棄し、挑発的な発言をする。
「ヤックに張り付けばいいんだな」
その場で俺に合わせて横に飛び、それから誘いでない事を理解したのかそのままの勢いで距離を詰めてくる。剣の間合いにしては近すぎて振れば大きな隙を晒し、逆に何もしなければそれもまた大きな隙になる。スレイブの思考を制限するために目を合わせる。目が合うと負け筋が幾つも頭に浮かび上がる。思わず目を背けて映った光景は火力を維持できずに空中で消失する火球だった。
しかし、剣士の意地か、はたまた模擬戦に甘んじ殺さられる事は無いだろうとタカを括って、姑息にでも勝てる方法を瞬時に模索していた。
「チッ…」思わず自分の浅ましさに舌打ちをしてしまう。
剣を手放し揉み合いにもつれ込む選択が浮かんだ頃には経験がそれを否定し、無意識のうちに腰に隠されている魔法陣に布の上から触れて魔力を流し込んでいた。その効果が発揮した瞬間に爆風が体を浮かせ、入れ替わる機会を窺っていたファクラと共にフィニュのいる後方へ訳もわからず押し戻されていた。
「…」
「うそっ」
フィニュの混乱した声が聞こえる。
「どうした?踏み込んでこないのか?」
ファクラの言葉を聞いて事態を理解する。
事態を把握し、このまま立て直す前に、或いは立て直しの猶予があったとしても、詠唱が聞こえる距離に陣取られ、俺を遮蔽物に斜線を切りられ続ければフィニュの援護はもう期待できなくなる。下手を打てば何もできぬままに3体1で完敗となってしまう。
そうなる前に距離を取らなければならない。警戒をしているのか、ファクラの電流が効いてるのかはイマイチ分からないが、ゆっくりと詰めてくる。スレイブが本格的に動き出す前に走り出す。手を振りかぶりながらフィニュにさりげなくハンドサインを送る。
走り寄り、踏み込んで攻撃する。
躊躇のない攻撃に恐怖してくれれば御の字であり、カウンターを喰らっても文句はない。しかし、誤算が一つ。
フィニュに合図した火球が飛んでこないのである。
スレイブは死の可能性を前にして悠々と俺を吹き飛ばした。
二度も同じ攻撃を喰らい、属性を理解し、あらかじめ起動していた防壁の魔法陣が急激に魔力を吸いだす。
「ッ…」
踏み込み腰を落としていた事もあって少し距離を離される程度で済んだ。
「ヤック!ファクラ!ごめん、魔力が乱されて…」
フィニュの突然の告発に常に危惧していた事態に追い込まれている事に今更ながらに気が付く。実戦で有れば死んでいた。
「はっぁ?魔力切れか?まだ全然魔力残って!ファクラ!俺では抑えられん!二人で時間稼ぐぞ!相手は風属性だ!防壁の魔術陣でも威力を抑えるのが限界だ!」
ダスト系に限定されている為、風魔法には攻撃力は無い。
その代わりに魔力でその風圧が脅威的なまでに高められる。
「ヤック!僕らの負けだ!」
「……そうか」
一人で抑えられない。事を理解したヤックは静かに頭を下げる。
「、強かった…途中から実践と同じ動きだったのに勝てなかった」
スレイブに握手を求める。
それに応えるスレイブを見て今の結果で煽り出す人柄でない事を改めて確認する。
「……私は何も出来なかった」
そんな事ないと喉から出掛けたヤックは押し黙る。気休めにもならないと知っているからだ。
「魔力を封じられるのがもっと早かったら僕も何も出来なかったし、もっと早く負けを認めてたと思う。けど、それだと不満が残って蟠りがあったかもしれない」
「…そうね」
そんな事があったのかと、二方向で戦いそのどちらにも勝ったスレイブを見ながら彼我の戦力差を理解せず舐めていた過去の己を戒める。
「間合いを見極められて、ずっと何処吹く風で居られたら接近出来ても意味が無いな、本当に本当に」その先の言葉を飲み込む。
その先を言ってしまえばフィニュの立場が無くなると思ったからだ。
「スレイブさん、吹き矢を弾き返したんですか?なんの魔法ですか?」
「…凝固、無属性の奥義、それで2段階ジャンプも可能にしてる」
「……本当にそんなことが」
「私の魔法を封じたあれは?」
「テリトリーに居たからいつでも出来る」
「テリトリー…?なんの魔法?」
「隠し魔力の内側にいたらってこと」
「…隠し魔力ってなんですか」
「うーん…ハハッうん、自然界の魔力の事だよ」
ヤックはスレイブを見て黙ってその情報を理解しようとするが、ちっともわからない…俺はどうやら本当に無力なようだ。
一瞬考える素振りを見せたスレイブが黙り込むのをみて、流石にこれ以上はタダで情報は話してはくれないかと一同の思案は一致していた。
お疲れ様でした。
容姿についての説明をし忘れていた事実に気がついた頃には既に手遅れ、可能な限り容姿には触れませんが、ヤックの身長は大体、176センチ前後だと思ってくだされば嬉しいです。




