第23話
いらっしゃいませ。
ーチャリン
公平性を保つ為に受付の人に戦闘開始の合図を出してもらう。
「ヤック!」ファクラの叫び声に応える様にヤックが雄叫びを上げ、そのまま走り込んで距離を詰め寄ってくる。間合い直前でヤックの振りかぶった大剣が面で振り落とされ、砂煙が上がる。直後横に飛んだ。
「ヤックに張り付けばいいんだな」
ヤックの動きに合わせて飛んで、ヤックを狙ったかの様な火球が砂煙を焦がしながら宙を切る。
「チッ…!」
舌打ちをしつつ顔を合わせてくるヤックを至近距離から風で吹き飛ばし、ヤックの陰に隠れて地雷を設置したファクラごと吹き飛ばす。
「……」
細い糸が地面から数センチの所で張られている。
吹き矢を利用した即席の妨害トラップだった。
「うそっ」
フィニュが小さく声を上げる。
ジッジィー……。地雷の効果は電流のようだ。
糸を伝い地雷が連鎖を起す。
触れていれば体が言う事を聞かなくなっていたかもしれない。直観的な魔力感知に引っかかる程に強い魔力を帯びた糸が展開されている。
「どうした?踏み込んでこないのか?」
「……」
凝固で糸を踏み躙る。
周囲に展開された凝固が糸を伝う魔力を妨害し、効力が消失する。この程度で効力が失われるのだから、 それほど危険でも無かったのではないかとすら思えてくる。隠し魔力で十分相殺出来たのではないかと。
再び接近したヤックが、大剣を振りかぶって模擬戦とは思えない必殺の一撃が目前を捉える。
刹那に当たらない位置である事を確認したのち、風魔法によるカウンターでヤックを吹き飛ばした瞬間である。小さな針がピュッと音を立てて首筋の手前まで勢い良く飛来した。矢は地雷の時から発動している凝固に弾き返されたようだ。
効果は不明だが内心ホッとする。
「ッ…」
多数の連携の取れた相手に立ち回るのが初めてだった為に、ファクラの下手な潜伏を逃げの一手或いは体制の立て直しだと決め付け、それが奇襲であるとは思ってもいなかった。もし凝固を解除していたらと思うとゾッとする。
「ぁ……」
フィニュから見ればヤックが突然吹き飛び、ファクラの即効性?の吹き矢が外れたように感じられるだろう。
「ヤック!ファクラ!ごめん、魔力が乱されて…」
「はっぁ?魔力切れか?まだ全然魔力残って!ファクラ!俺では抑えられん!二人で時間稼ぐぞ!相手は風属性だ!防壁の魔術陣でも威力を抑えるのが限界だ!」
「ヤック!僕らの負けだ!」
「……そうか」
ハラハラしながら見ていたラニャがその言葉を聞いて、腰を降ろした。気配感知で常に動きを察知してたが、1番動いてた気がする。
まぁ、なんにせよ勝てて良かった。
「、強かった…途中から実践と同じ動きだったのに勝てなかった」
ヤックが握手を求める。
それに応えて、一先ず目的は果たせたと安心する。
「……私は何も出来なかった」
「魔力を封じられるのがもっと早かったら僕も何も出来なかったし、もっと早く負けを認めてたと思う。けど、それだと不満が残って蟠りがあったかもしれない」
「…そうね」
「間合いを見極められて、ずっと何処吹く風で居られたら接近出来ても意味が無いな、本当に本当に」
「スレイブさん、吹き矢を弾き返したんですか?なんの魔法ですか?」
「…凝固、無属性の奥義、それで2段階ジャンプも可能にしてる」
「……本当にそんなことが」
「私の魔法を封じたあれは?」
「テリトリーに居たからいつでも出来る」
「テリトリー…?なんの魔法?」
「隠し魔力の内側にいたらってこと」
「…隠し魔力ってなんですか」
「うーん…ハハッうん、自然界の魔力の事だよ」
記憶に無いはずの、どこで習ったかも分からない言葉がスラスラと浮かび上がる。その恐怖が体を震わせ、嫌な妄想が少し脳裏を過ぎる。
そもそも2段ジャンプなんてどこで練習して何故当然のように扱えているのかわからない。
そして、未知の記憶から確かな感覚を思い出す。
誰かの声に体が強ばり、瞬時に脱力する。
心臓が一瞬握り潰されたような気さえする。
心做しか目の前の光景がはるか遠くの出来事で、夢なのではないかなんてそんな気になっていた。
お疲れ様でした。




