その4
「美穂ちゃんならできると思う。応援してるから」
「うん。ありがとう。……妹尾君も。千奈津と一緒にわたしのこと捜してくれてありがとう。迷惑かけちゃったね」
妹尾に感謝の視線を向ける美穂へ、妹尾が目配せをしてみせる。
「気にすんなって。その代わり今度ライブする時チケット買ってくれよ」
「あはは、うん」
美穂の瞳から涙がこぼれ落ちた。泣き笑いの顔のまま、森宮へ向き直る。
「森宮先生、山我先生、音喜多先生、本当にお世話になりました」
先生全員に向かい頭を垂れる美穂に、森宮が柔和な笑みを浮かべる。
「気にしないでください。僕らは研究者であると同時に教育者でもあるんですから。困っている学生を助けるのは当たり前です」
「そうよ。それに私たちの一族は昔から人助けして生きてきたの。伝統っていうか、性分っていうか、それこそ敦弘にとっては研究の一つでもあるんだから気にしないでね」
山我がフォローになっていないフォローを入れると、音喜多がそうそう、とさらに追い打ちをかける。
「これも森宮先生にとっては研究の一環だから。気にしないでどんどん幸せになっちゃいなよ」
こんな面倒な騒動をまた起こすつもりなのだろうか。杏梨はこめかみに手をあてる。
(ちょっとは反省して欲しいんだけど……)
吐息して見守るその視線の先で、美穂が神妙な面持ちで答える。
「はい。ありがとうございます。頑張ります」
姿勢を正し改めて一礼する美穂に向かい、隆行が声をかけた。
「さあ、なら丸田さん、そろそろ行きましょうか。家まで送っていきますよ」
「浅間さん。大変お世話になりました。なんとお詫びしたら良いか」
美穂の父親が隆行へ詫びると、隆行がおどけてみせた。
「なあに。仕事ですから。依頼料さえいただければ、それで十分ですよ」
「ありがとうございます」
もう一度深々と礼をする丸田親子へ、隆行が告げる。
「さあ、もう顔をあげてください。行きましょう」
「はい」
首肯する丸田親子と連れだって歩き出した隆行が、思い出したように視線を向けてきた。
「じゃあな、杏梨。あとのことは頼むぞ。SNSで報告してくれ」
声をかけられ、杏梨はかしこまってみせる。
「はい、承知しました。社長」
「面倒だから仕事の時は浅間さん、と言えよなー」
「はあい」
笑いながら手を振ってくる隆行に向かい、杏梨は小さく手をあげた。




