その3
「わかったよ、美穂。中途半端な今の俺じゃお前に相応しくないよな」
無理やりな笑顔を作って美穂を見つめる高間へ、美穂が涙声で呟く。
「敏樹」
「元気でな」
手をあげる高間に、美穂が頷く。
「うん。さようなら」
踵を返し去って行く姿を美穂が見送る。そんな二人を見つめていると、今度は穗澄が美穂へ話しかけてきた。
「美穂。俺、俺は……」
美穂のことを諦めきれないのだろう。口惜しげに拳を握り締める穗澄を見て、隆行が静かに穗澄へと近づいた。
「穂澄君。君も一人の男として、きちんと今の現状を受け入れなくちゃならない。わかるか?」
「はい……。わかります……わかってはいたんです……ずっと前から……でも……」
唇を噛み締める穗澄を気遣わしげに見遣る美穂の父親に、隆行が告げる。
「丸田さん。あなたたちは一度きちんと話し合った方がいい。もし荒れそうなら、然るべきところからカウンセラーを紹介しますので遠慮なく言ってください。もちろん話し合いは奥様も一緒に行ってください」
厳しい口調で語る隆行を前に、美穂の父親が消沈した表情で首肯した。
「はい……。わかりました」
美穂が自分の父親の言葉を受けてほっとしたのだろう。ゆっくりと近づいてきた。
「千奈津、仁科さん、妹尾君、色々ありがとう。心配かけてごめんなさい」
詫びてくる美穂に千奈津が涙目で答える。
「本当だよ。どんだけ心配したと思ってんのよ」
「うん。ごめんね」
美穂が千奈津の手を握るのを見てから、杏梨は美穂へ微笑みかけた。
「とにかく無事でよかった。ずっと何かあったんじゃないかと思ってたから」
「随分捜してくれたって先生たちから聞いてた。本当にありがとう、仁科さん」
満面の笑みを浮かべて礼を言ってくる美穂に、杏梨はネックレスと指輪を見せる。
「このアクセサリーはどうする? 持って帰る?」
「ごめんなさい。わたしにはもう受け取る資格がない気がする」
そう言うだろうとは思っていた。だが、まさかこのまま持って帰るわけにもいかない。高間も受け取ることはしないだろうし、どうしたものか。考え込んでいると、なら、と隆行が声をあげた。
「俺がパーカーと一緒にしかるべきところで処理して貰うかな」
「叔父さん! いいの?」
隆行の助け船に杏梨は瞠目する。そこまでして貰っては申し訳ない気もして尋ねると、隆行がくすりと肩を揺らした。
「ああ。まあ、アフターケアってヤツだな」
「ありがとうございます」
頭を下げる美穂に軽く会釈して、隆行がこちらに近づいてくる。杏梨は隆行に指輪とネックレスを手渡す。ほっと一息吐いた後、ふと気がつき改めて美穂を見た。
「これからどうするの?」
「家族で話し合って、自分のやりたいことをもう一度考えてみる。また大学受験し直さないといけなくなるかもしれないけどね」
自嘲気味に微笑み肩を竦める美穂へ向かい、杏梨は大きく首を縦に振った。




