その2
「ああ、早い話がそういうことだな」
「けど、森宮先生が監禁していたんじゃないとしたら、森宮先生はなんで美穂ちゃんの衣服を隠してたんだ?」
いつの間にかやって来ていた妹尾が後ろ頭で手を組みつつ尋ねてくる。
「それは僕たちがやったことじゃありません。ただ物が置かれていたことには当初から気づいていましたが」
答えたのは森宮だった。杏梨は目を瞬く。
「知っていて黙っていたんですか? お二人とも? どうして?」
「それは」
問い詰めると、森宮が言いにくそうに言葉を切る。黙って視線を美穂へ向けると、美穂が起立しおもむろに口を開いた。
「わたしが自分で置いたの。わざと」
美穂の言葉に杏梨は目を瞠る。
「なんでそんな回りくどいことを?」
首を傾げると、美穂の頬がうっすらと朱色に染まった。
「敏樹にわたしを捜し出して欲しくて。もっと早くに捜し出してくれると信じていたから。ううん。信じたかったから。でも、敏樹はわたしがいなくなっても、捜してくれようともしなかった。もう本当にダメなんだって確信したわ」
諦めたように吐息する美穂を前に、高間が激しくかぶりを振った。
「そんなことない! 確かに俺、すぐに浮気するし、お前のことも腹立ててたからすぐに捜そうとしなかったかもしれない。けど! それは俺が美穂にふさわしいっていう自信がなかったからなんだ。今だって本当に俺でいいのか自信がない。けど、俺が! 俺には美穂が必要なんだ!」
高間の言葉に、美穂の瞳が揺らぐ。するとそれを聞いていたらしい穗澄がまたしても美穂と高間の間へ躍り出てきた。
「俺だって! 俺だって姉さんが! いや、美穂が大事なんだ! もう小さい頃からずっと、美穂のことだけ想ってきた。俺にとっては美穂がすべてだ。高間なんかに、こんな浮気男なんかに負けない!」
一人の女性へ必死で想いを伝える二人の青年を、杏梨は黙って眺める。もし自分だったらこんな大胆なことできるだろうか。
(絶対に無理そう……)
今はまだ、こっそりと想うのが精一杯な気がする。ちらりと森宮へ視線を向けながら内心で思っていると、千奈津が一歩前へ進み出てきた。
「美穂……」
声をかけようとする千奈津の肩を妹尾が押さえる。
「いいから、お前は黙ってここで見てろって」
千奈津へ対していつになく優しい声音を吐く妹尾に驚き、杏梨は二人の様子を見守った。
「けど」
千奈津が上目遣いで妹尾を見あげる。
「美穂ちゃんはお前の友達だろ? 信じろよ」
「聖……」
泣き出しそうな千奈津に微笑む妹尾を見て、なんとなくわかった気がした。
(二人ならお似合いかも)
口元を綻ばせて、千奈津と妹尾から視線を美穂たちへ移す。
(美穂ちゃんは、どうするんだろう?)
黙って見守っていると、長い沈黙の後美穂が口火を切った。
「二人ともありがとう。そこまで想ってくれてたなんてまったく知らなかった。でも、ごめんなさい。わたし、二人の気持ちに応えることはできないわ」
頭を下げる美穂に対し、二人の男性が吼える。
「どうして!」
「なんでだよ、美穂!」
騒ぐ高間と穗澄に向かい、美穂が言葉を紡ぎ出した。
「わたし、ちゃんと自分の足で立ってみたい。自分できちんと自立できるようになって、その時そんなわたしでも、ううん、そんなわたしだからこそ好きだって言ってくれる人と一緒にいられるようになりたいの。護ってもらうのは今日で終わり。だから二人とも、ごめんなさい」
もう一度深々と頭を下げる美穂に、二人の青年はがっくりと肩を落とす。
「美穂」
苦々しげに名を呼ぶ穗澄とは対照的に、深く吐息したのは高間だった。




