その13
「父さん! 父さんまでグルだったのかよ!」
穗澄の言葉にはっとして、杏梨は山我を振り返る。
「行きましょう。今は彼をとめるのが先よ」
杏梨は山我を見遣る。強い瞳で受けとめられ、杏梨は深く首肯した。
「ほ、穂澄! なんでお前がここに!」
美穂の父親、つまり穗澄の父親でもある彼が、穗澄を見て後退る。杏梨は急いで四人の中へと躍り込み、森宮と音喜多を睨み据えた。
「森宮先生! 音喜多先生! どういうことか説明してください! 美穂ちゃんを保護してたってどういうことですか?」
低い声で問うと、森宮が静かな口調で質問を返してくる。
「それを誰から?」
「山我先生です」
即答すると、森宮が盛大な溜め息を吐いた。
「達子さん、言わないでくれって言っておいたじゃないですか! 危ないことになりかねないから巻き込むのは良くないと言ったのは達子さんなのに」
愚痴る森宮に山我が不服げな声をあげる。
「そんなこと言ったって、思った以上に粘り強い子だったんだもの。実際真実に近づいてきていたし。事によってはこちら側についてくれるかも、とも思ったのよ」
二人の会話を聞いて、真っ先に口を開いたのは隆行だった。
「むしろ最初からきちんと説明してくれたらよかったんですよ。うちの姪っ子はそういう機微のわかる子ですから」
若干憤慨したように言葉を紡ぐ隆行へ、森宮が尋ねる。
「清掃員の浅間さん。いえ、探偵さん、ですよね?」
「はい」
問われて素直に首肯する隆行へ、森宮が頭を垂れた。
「大切な姪である杏梨さんを巻き込んでしまい申し訳ございませんでした」
「いいえ。それはこの子が自分で考えて決めたことですから」
隆行が森宮へ告げると、森宮が一瞬顔をあげ、再度一礼した。
「叔父さん……。森宮先生……」
杏梨は二人の言葉に何も言えなくなる。ただ、迷惑をかけたことだけは確かだと理解していた。けれど、どう詫びたらいいのかもわからない。わからないながらも、森宮へ近づいた時だ。
「私のせいです! 私が娘の話をきちんと聞いて対処していれば、こんなことには……」
美穂の父親が項垂れた。それに反応したのは穗澄だ。
「父さん! ちゃんと説明してくれ! 美穂は、姉さんは今どこにいるんだよ!」
俯いている父親の肩を掴み、強く揺する。そんな穗澄を隆行がとめようとした次の瞬間、悲痛な叫び声が聞えてきた。
「先生! 助けて! 友達に見つかっちゃったの! ……って、穂澄! なんで!」
飛び込んできたのは美穂本人だった。
「姉さん!」
穗澄が歓喜の表情を浮かべるのと同時に、美穂の後方から騒がしい声が聞えてきた。
『美穂!』
「美穂ちゃん!」
新たにやって来たのは千奈津と妹尾、それから高間だった。どうやって美穂を見つけたのかは謎だが、二人は独自に美穂のことを追ってくれていたのかもしれない。
「美穂ちゃん? なんでここに!」
杏梨は問いかけるが、美穂からの返事はない。代わりに千奈津が美穂の肩を捕らえた。




