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苔の海に溺れた人へ  作者: 朝川 椛
第四章 ハンニンとツミビト
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その12

 一目散にログハウスから温室へと向かう。山を道なりに下り、見えてきた白枠と透明なガラス張りの温室へ近づく。すぐにでも扉を開けようとした時、後方から見知った声が聞こえてきた。


「待て、入るな」


 驚いて振り返ると、そこにはやはり隆行が立っていた。


「お、叔父さん! なんでこんなところに?」


 問いかけると、隆行が怒ったような声音で訊いてくる。


「お前こそどうして。しかもそんなに目を腫らして。なんで泣いてるんだ?」

「こ、これはちょっと……」


 どこから話したら良いのやら。返答に困って黙り込むと、隆行が扉を半開きにして、人差し指を自身の口元へ立ててきた。


「まあ、いい。とにかく今は静かにここで待つんだ」

「何故?」


 理由わけがわからず尋ねると、隆行が顎をしゃくる。


「奥を見てみろ」


 隆行に促され、杏梨は扉の隙間から温室の奥を覗き込んだ。


「森宮先生と音喜多先生、それに、なんで? あれって美穂ちゃんのお父さんじゃない!」


 驚いて叫ぶと、叔父が顔をしかめる。


「しっ! いいから、ここからしばらく様子を見るんだ。いいな」

「は、はい……」


 叔父に窘められ、杏梨は急いで首肯する。そのまま温室を見つめることに集中すると、中にいる音喜多と美穂の父親の声が耳に届いてきた。


「もうこれ以上隠し通すのは無理だ」


 音喜多が断定するのが聞こえてくる。


「ですが……」


 森宮が難色を示すと、美穂の父親が口を開く。


「連れにはこれからきちんと話すつもりです」

「しかし、それでは丸田さんが……」


 森宮が二人に反論するのが聞こえるが、話の途中で杏梨は叔父へ向き直った。


「どういうことなの? なんで美穂ちゃんのお父さんがいるの?」

「それはつまりだな」


 だが、隆行が事情を説明しようと口を開きかけたその瞬間、さらに後方で息も切れ切れな声が飛んできた。


「敦弘は丸田さんを、本人と丸田さんのお父さんの依頼で保護してたのよ」

「山我先生!」


 杏梨は山我の姿を認めて目を見開く。ここまで自分を追って駆け下りて来たのだろう。しかも山我の言うことが本当ならば、山我はログハウスで自分に事情を説明してくれるつもりだったのではないだろうか。


(ああ!)


 早合点もいいところだ。申し訳ない気持ちで山我を見遣ると、呼吸を整えた山我が言葉を紡ぎ出す。


「とは言っても、まあ、実際は――」

「やっぱりそういうことか!」


 山我の声を遮ってきたのは美穂の弟、穗澄だった。

 一体どこで聞いていたのだろう。全然気配に気づかなかった。杏梨は立ちあがり、ずんずんと近づいてくる穗澄を見つめる。


「ほ、穗澄君、ちょっと待って」


 怒りに燃えた瞳にただならぬものを感じとめようとしたが、どけ、と言わんばかりに肩を邪険に押された。


「痛っ!」


 半開きになった扉に押しつけられ不平を口にするも、そんなことを気にもかけず穗澄が温室内へと入ってしまう。


「え? あ、君! ちょっと!」


 隆行がとめるのも聞かず、穗澄が奥へと進んでいく。隆行がすぐさま彼の後を追った。杏梨は遠くなっていく二人を訳がわからず茫然と眺めていると、山我が肩へ手を置いてきた。

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