その5
「うん。あのね、森に住んでる山我達子さんと森宮先生、本当に付き合ってるんだと思う」
言い切るも、隆行が首を左右に振ってきた。
「それはないな。山我達子には夫と二人の息子がいる。夫婦仲は極めて良好で夫人の方にも夫の方にもそういった不倫の兆候は皆無だ」
そうだったのか。あのログハウスへ行った時は自分のことに手一杯で、どんな写真が飾ってあったのかも見ていなかった。だが、これだけはわかる、と杏梨は言葉を紡ぐ。
「なら、片思いなんだよ。とにかく森宮先生は山我さんのこと、大好きなんだと思う」
「なるほど。で? それがどうかしたか?」
半分茶化すように尋ねられ、杏梨は顔が上気していくのを感じていた。
「まだ自分でもよくわからないんだけど。私は二人が仲良くしているところを見ているのが辛いの。こう、胸が捩れるような感じがしちゃって。逃げ出したいような、でもそのまま森宮先生を見ていたいような、変な気分になるの」
「ふむ。で、お前はそれが何かわからないって言いたいのか?」
くすくすと肩を揺らす隆行を前に、杏梨は頬を膨らませる。
「意地が悪いわねー。森宮先生のことが好きなんだと思うって言ってるんですー」
そこまで言わせないで欲しい。唇をとがらせていると、隆行が声をあげて笑った。
「あはは。お前が素直に認めるとは思わなかったよ。これは赤飯だな。と言ってやりたいが、相手がなあ」
ぼやく隆行に、杏梨は表情を改めた。
「叔父さん。叔父さんたちが言うように、森宮先生が犯人なんだと思う。少なくとも、六人の失踪に関わってるのは確かだと思うわ。でも、何かよっぽどの理由があるんだとも思うの」
自分はそれを探りたい。だが、隆行の表情は予想以上に硬かった。
「理由があるからって相手を監禁していいわけじゃない。穂澄君の言ってることは正しいことではないが、心配しているのは確かだ。そして俺はそれを解消するという依頼を受けた。わかるな?」
諭すように問われ、杏梨は首肯する。
「うん。でも森宮先生だってまだ完全にクロってわけじゃないでしょ? せめて警察に話すのはもう少し待ってくれない? いざって時は森宮先生を私が説得してみせるから」
きっぱり宣言したつもりだが、叔父が深い溜め息を吐いてくる。
「何はともあれ、だ。まずは美穂さんたちが無事なのかどうかが大事だ。俺はそっちの方を早急に調べるから、お前の懸念は俺がそれを突きとめるまでに解消すること。そうじゃないと、俺は幸也さんたちに全部を話すからな。わかったか?」
念を押され、杏梨はしっかり了解の意を告げた。
「はい」
「返事だけはいいんだがなあ」
困ったもんだ、とぼやく隆行へ申し訳なく思いつつも、杏梨は決めていた。
(依頼は私が解決する!)
杏梨はもうためらったりしない、と一人心に誓った。




