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苔の海に溺れた人へ  作者: 朝川 椛
第四章 ハンニンとツミビト
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その4

「やだ! もうこんな時間! あたし早く帰らないと。門限破るとパパったら家に入れてくれないの!」

「そうなの? 初耳だけど!」


 千奈津の意外すぎる言葉に目を丸くすると、千奈津がわざとらしく首を傾げてくる。


「そうだっけ? まあ、いいわ! さ、行くわよ、聖っち! 美穂の弟君も!」


 千奈津が二人の男性を無理やり事務所から追い立て始める。


「え? 俺ですか?」

「な、なんで俺まで!」

「いいから!」


 不平を言う穂澄と妹尾を出入口まで追い立てた千奈津が、くるりとこちらを向いた。


「じゃあね、杏梨! 明日詳しく聞くから!」


 右手を軽くあげ、扉を開ける。顔を顰めていた穂澄が観念したかのように吐息した。


「わかりました。突然押しかけて申し訳ありませんでした、浅間さん」


 頭を下げる穂澄に、隆行がかぶりを振る。


「いや、構わないよ。気にしないでくれ」

「ありがとうございます」

「もう! いいから! 早く早く! 早く行くわよ!」


 礼を言う穂澄の背中を、千奈津がぐいぐいと押した。その斜め後ろで、 妹尾が面倒くさげに舌を打つ。


「ったく! じゃあ、また明日ね。杏梨ちゃん!」


 微笑んでくる妹尾に、杏梨は笑顔で首を縦に振った。


「うん。また明日」

「失礼します」

「どうも」


 こうして三人は一気に去っていった。


(もしかして、気を遣ってくれた、のかな?)


 多分そうだろう。


(嬉しいな)


 杏梨は人差し指を顎にあてる。千奈津の心遣いにこそばゆさを覚えていると、隆行の溜め息が聞こえてきた。


「嵐のようなだな」


 隆行の感想に、杏梨は苦笑する。


「そうだね。でもいい子だよ」


 心から告げると、隆行が片頬をあげてきた。


「だな。で、親友がせっかく気を利かせてくれたんだ。何か話したいことがあるんだろう?」


 隆行に促され、杏梨は覚悟を決めた。

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