その6
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具体的なことはまた後日、ということで、美穂の両親は帰って行った。
杏梨は千奈津とともに細かな打ち合わせのため、まだ隆行の事務所にいる。
「叔父さん、まずは聞き込み?」
尋ねると、叔父はきちんと整理されたファイルの中からいくつかの用紙と名刺を取り出しながら答える。
「そうだな。まあ、俺も内部に入って話を聞くつもりではいるが。明日からってわけにもいかないしな。とりあえず千奈津ちゃんの友人たちからもう一度証言を集めておいてくれるか?」
「わかった」
杏梨は肯定し、叔父の作業を黙って見守る。すると、おもむろに隆行が顔をあげ見つめてきた。
「ところで杏梨。お前、今年は七月八日の法事、出席するのか?」
隆行の言葉に反応したのは自分ではなく、千奈津である。
「七月八日? それってゼミのフィールドワークの日じゃない? 杏梨」
確かにそうだ。だが、ゼミの方は絶対に参加しなければならない事柄でもない。なのに、そのことを伝える前に隆行があっさりと結論を出してしまった。
「そうか。じゃあ、学業優先だな。今年は欠席ってことか。由季が遊んでくれる人がいないと残念がるだろうが。まあ、しかたないか」
「待って! 私まだどっちに出席するか決めてないから!」
杏梨は堪らず立ちあがって反論する。だが、隆行も珍しく頑なだった。
「美知子さんと幸也さんにはちゃんと俺から伝えておいてやるぞ?」
「ママとお父さんには私から伝えるから! 叔父さんはまだしばらく黙ってて。お願い!」
このままではまた継母である美知子が、生みの母親である友恵の親類に良からぬことを言われてしまう。それだけは耐えられない。
(彼女は、血は繋がっていなくともちゃんと私の母親なのに)
必死に目で訴えると、隆行が頬を掻いた。千奈津も常にないこちらの反応に驚き、瞳がこれ以上ないほど見開かれている。
「そうか……。わかった。ちゃんと話し合えよ」
「わかってる」
吐息した隆行は折れてくれたらしい。若干肩を落として告げられた言葉に、杏梨は心から首肯した。