その2
「由季ちゃん元気になったね。明るくなった」
あれならもう大丈夫そうだ。そんな感想を込めて告げると、隆行が深く首を縦に振った。
「そうだな。荒れていたとは思えないだろう?」
まったくだ。悪い仲間とつるんでいたわけではないが、一時期は不登校になり、両親が部屋に入ろうとするだけで物を投げつけられることも多々あった。まあ、それでも部屋を完全に塞ぐことまではしなかっただけマシなのだろうが。
「叔父さんと叔母さんの努力の賜物だね」
その頃の由季と叔父夫婦、互いの心労を思うと泣けてくる。吐息とともに告げると、隆行がむず痒そうな顔をした。
「まあ、職を変えた分家族といられて、あいつのことも見ていられるしなあ」
「よかったね」
心から告げると、叔父がああ、と深く首肯する。それから我に返ったのか、慌ててソファへ座り直した。
「……って、そんなことより、丸田君。一体何を思い出したのか早速教えて貰っていいかな?」
丸田を見遣る隆行へ、神妙な面持ちでソファに座していた穂澄が小さく頷いた。
「あ、はい。姉のスマホにあった写真を持ってきたんですけど。少し見ていただけますか?」
説明しながら、スマートフォンを手渡される。
「美穂ちゃん? これって、さっき見つけたこの美穂ちゃんのパーカーそのものじゃない?」
杏梨は画面越しの写真の中で幸せそうに微笑む美穂の姿を見て、隣にいる千奈津へ問いかけた。千奈津も身を乗り出し、スマートフォンを見つめる。
「そうそうこれ。よく着てたんだけど」
「どうもそのパーカー、高間から貰った物らしいんです。他にも指輪とかネックレスとかも」
穂澄の言葉に、隆行が険の籠った声をあげる。
「なんでそんなこと君が知ってるんだ?」
「姉のSNSとスマホを調べてみたら出てきたんです。いい笑顔してるな、と思って俺のスマホに転送してこっそり保存してたんだけど。まさかこの笑顔が高間へ向けたものだったとは思わなかったです」
それって犯罪じゃあ、と杏梨はじとっと穂澄を見遣る。
「で、君は何が言いたいんだ?」
叔父がつっけんどんな口調で尋ねる。だが、当の本人は気づいた様子もなく、神妙な面のまま自らの考えを告げてきた。
「犯人は森宮じゃなくて高間かな、って」
「高間君が? その線はないと思うがな……」
顎に手をあて答える隆行に、それまで黙していた妹尾が同意した。
「俺も。あの高間にそんな度胸があるとは思えないけどな」
話しながら千奈津のさらに隣で腕を組む。すると、妹尾の言葉を受けて千奈津がおもむろに口を開いた。
「そうよね。高間って言ったら、絵ばっかり描いてて、優柔不断で、それなのに何故か女子にモテるんだよね。あたしは苦手なタイプだけど、でも美穂ってあたしほどじゃないけど世話好きだったからさ。もしかしたらああいう守ってあげたくなる男子が好きなのかも」
考え考え見解を示す千奈津に、穂澄が静かな口調で返答する。
「どちらにしても、高間が復縁を迫っていたのは確かです」
「まあ、確かに俺もそんな証言は得ているけどな」
隆行の言葉に杏梨はさすが、と口角をあげる。叔父が組んでいた腕を解き、両手をそれぞれの足へ置き、半眼で穂澄を見つめた。




