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苔の海に溺れた人へ  作者: 朝川 椛
第四章 ハンニンとツミビト
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その1

 浅間家に辿り着くと、そこには先刻の茶色い髪をした青年、美穂の弟が、所在なさげに立っていた。ついさっき森宮に捨て台詞を吐いていたのと同じ人間とは、とても思えない。それほど意気消沈して見えた。


「あ、あの……」 


 美穂の弟がためらいがちに声をかけてくる。


丸田穂澄ほずみ君?」


 隆行が美穂の弟へ名を確認すると、穂澄と呼ばれた美穂の弟が深々と一礼した。


「さっきは頭に血が上ってしまって暴言を。大変申し訳ございませんでした」


 殊勝な態度で縮こまっている穂澄に、隆行がかぶりを振る。


「いや、最愛のお姉さんが突然いなくなったんだ。取り乱すのもしかたがない。それで、わざわざさっきのことを謝りに来てくれたのかな?」


 隆行が尋ねると、穂澄は首を左右に振った。


「いいえ。それだけじゃなくて、後で思い出したことがあって、こちらで待たせていただいてたんです」

「チャイムを押して事務所で待っていてくれてもよかったんだが」


 隆行の言葉に穂澄が目を伏せる。


「なかなか勇気が出なくて」


 穂澄の発言を聞いて、隆行の瞳の色が深まった。


「ほう……」


 あれは信じていない時の目だ、と杏梨は思う。どうするつもりだろう。事態を見守っていると、隆行がふと息を吐いた。


「まあ、いいか。とにかく話は中に入ってからにしよう」

「はい」


 隆行に促され穂澄が扉の中へ入る。杏梨は千奈津や妹尾とともに後を追った。廊下から事務所内へ通されると、隆行からソファを勧められる。


「好きなところに座っててくれ。お茶を用意してくる」


 叔父が出ていこうとしたその時だ。事務所と自宅を繋ぐ廊下の扉から、ノック音がした。隆行が慌てて扉を開けると、はにかんだ笑みを浮かべた黒い髪をしたショートヘア姿の少女が立っていた。だが、その一方で服装は黄色のTシャツとくるぶしすれすれの紺色をしたガウチョパンツといった、ほんの少しだけアンバランスな格好をしている。


「お茶とお菓子持ってきたよー」


 明るい声音になんとなく重くなっていた空気が軽くなる。


「ああ、ありがとう由季。助かるよ」

「いいの。料理とか好きだし」


 隆行の言葉に由季と呼ばれた少女が弾けるような笑顔で答えた。杏梨はお盆が丸テーブルに置かれるのを待ってから、挨拶をする。


「こんばんは、由季ちゃん」

「杏梨ちゃん! こんばんは! 今日は晩御飯までいられるんでしょう?」


 年下の従妹が嬉しげに飛び跳ねてきて、杏梨は口元を綻ばせた。


「うん」


 頷くと、由季がくるりと踵を返す。


「やった! じゃあ、私母さんを手伝ってくるね」

「ああ。よろしくな」

「はあい」


 隆行の言葉へ後ろ手に手を振った由季が楽しげに去っていく。扉が閉ざされると、杏梨は隆行へ話を振った。

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