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苔の海に溺れた人へ  作者: 朝川 椛
第三章 苔のフィールドワーク
55/79

その19

「あなたは……。というか、この子たちは何故ここに?」


 森宮の問いに、隆行が口元を緩めた。


「あなたを待っていたんだそうですよ、森宮さん。俺はたまたま通りかかった清掃員です」


 隆行の説明に森宮の名が登場したことへ気づくなり、美穂の弟と高間の目の色が変わった。


「森宮先生!」

「森宮って!」


 口々に叫んだ二人が森宮へと迫ってくる。


「森宮ぁ! お前ぇ!」


 怒りのままに、美穂の弟が森宮の胸座むなぐらを掴む。


「美穂をどこに隠した!」


 脅すような声音に、だが森宮が慌てた様子はなかった。


「何を言っているのかわかりませんが、もし万が一知っていたとしても、初対面の人間に

対してこんな態度を取る人に教える気にはなれませんね」

「何!」


 宣言しながら美穂の弟が掴んでいた手をそっと退ける。驚く美穂の弟を尻目に、言葉を紡ぎ出した。


「君たちは二人とも自分のことばかりです。丸田さんがどうなってしまっているのか、心の底から心配しているようには思えません」

「俺、森宮先生が美穂に何かするなんて思ってない。でも、俺わかったんだ。いろんなヤツから話聞いて、コイツが美穂のいい弟ぶって俺の周囲の人間に近づいてたって。それで俺が女の子と浮気するよう画策してたって。なんでコイツがそんなことするのか知らないけど、俺が浮気したことが美穂の失踪の原因なんだとしたら謝りたいんだ。だから、居場所を知ってるなら教えてくれよ」


 高間が懇願してくる。美穂の弟がすかさず反論した。


「けしかけてなんかいない! ただ、あんたじゃ姉さんを幸せにすることはできないって思ったから。穏便に別れさせてやろうと思っただけだ」


 さらり、と怖いことを吐露する美穂の弟へ、杏梨は戦慄する。高間も同じ思いだったのか、彼がここぞとばかりに追及した。


「それがまともな弟の言うことか! 有り得ない!」


 足を高く打ち鳴らす高間に、また殴り合いになりそうだ、と緊張が走った時だ。隆行が二度手を叩いた。


「まあまあ、とにかくみんな落ちつけって。とりあえず温室に入って待ってろよ。缶コーヒーでも買ってきてやるから」


 すると、森宮がそれなら、と隆行に提案する。


「僕が用意しますよ。ほうじ茶ですが、美味しいですよ」


 微笑む森宮に、毒気を抜かれたのだろうか。隆行が曖昧な相槌を打った。


「は、はあ……。って、君、自分の立場わかってるのか? 疑われてるんだぞ?」


 つい、といった態でツッコむ隆行に対し、森宮が大きく頷いた。


「わかってますよ。でも、どちらにしても気を落ちつかせる方が先決でしょう?」


 邪気のない笑顔で答える森宮の言葉に、鼻を鳴らしたのは美穂の弟だった。


「は! ほうじ茶だって? 俺はあんたの淹れるほうじ茶なんて飲みたくないね。これ以上姉さんになんかしてみろ! 本気で八つ裂きにしてやるからな! 高間、お前もだ! 金輪際姉さんには近づくな! いいな!」


 念を押しながら、美穂の弟が踵を返す。


「あ、お、おい!」


 呼びとめる隆行を無視して歩き去ってしまうと、向かいにいた高間も絞り出すような声を出した。

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