その16
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「ふー、気持ちよかったあ!」
結局、杏梨は千奈津とともに風呂へ入った。寒さも消え、濡れた髪もドライヤーを借りてしっかり乾かし、すっきりとした気分だ。今は山我に誘われ、杉の木でできたテーブルの椅子へ、妹尾とともに三人で座している。
「良くないわよ、全然! あたしなんか何されるかわかんないからずっとヒヤヒヤし通しだったわ」
「ドライヤーまで借りてて何言ってるのよ」
隣に座り、借りたフェイスタオルを首にかけながら千奈津が身を震わせる。そんな彼女を言い咎めると、千奈津が呻いた。
「う! それはそうだけど。ちょっと聖っち、黙ってないで何か言ってよ!」
隣で気持ちよさげに手うちわを打っている妹尾へ肘鉄を食らわせる千奈津に、妹尾がむっとした様子で眉根を寄せた。
「わかってるよ。お前がうるさいからこっちが何も言えないんだろうが」
千奈津を責める妹尾へ、杏梨は尋ねる。
「妹尾君も、まだ森宮先生が拉致してると疑ってるの?」
「まあ、その可能性は高いかな、とは。山我って人も怪しいけどさ。けど、どっちにしても確証がないだろ? もっと調べないとさ」
至極真っ当な意見に、杏梨は無言で同意する。だが、納得していなかったらしい千奈津が、背中を叩いてきた。
「美穂のパーカーがあった時点で十分じゃない。他に何が必要なのよ」
強い口調で言い切る千奈津に対し、妹尾が顎へ手をあてる。
「んー、もっと決定的な物がこの家とか森宮の温室で見つかったりとかしたら、かな?」
妹尾の言葉に、杏梨は俯いた。
「温室で……」
ひとりごちていると、妹尾が視線を向けてくる。
「そんなの簡単に見つかるわけが。って、どうしたんだい? もしかして何か見つかってたとか?」
「ううん、何も」
温室で見つけた指輪のことは、どうしても口に出せなかった。苔玉に入っていたということは、やはり何かのSOSなのだろうとは思うが。
(――やっぱり森宮先生が……)
信じたくない。杏梨は邪念を振り払うために、激しくかぶりを振る。そこへ、山我が森宮を伴い大きな木製のお盆を持って現れた。




