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苔の海に溺れた人へ  作者: 朝川 椛
第三章 苔のフィールドワーク
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その15

「本当のピンチにはちゃんと助けてるでしょう? それとも、他に何かあるの?」

「う、いや、別にない、ですけど」


 口篭らせる森宮を、山我が余裕の笑みで見つめる。口では山我に勝てないらしい。


(けど、やっぱりとっても仲良さげ……)


 付き合ってるとしか思えないほど親密な雰囲気を醸し出している。


(でも、このままじゃ、埒が明かないし)


 正直言って少し風が吹くだけでも寒いのだ。杏梨は山我に嫉妬している自分を自覚しつつも、わざと明るい声で話しかけた。


「あ、あの! 前も思ったんですけど、お、お二人とも仲がいいんですね」


 森宮を見遣ると、森宮が目をしばたたかせ首肯する。


「え、ああ。まあ、今一番頼りになるかたなので。そもそも家族同然ですし」

「そ、そうなんですか……」


 杏梨は照れたように話す森宮の表情に、鈍器で頭を殴られたかのような衝撃を受けた。わかっていたことだが、辛い。


(やっぱり二人は恋人同士なんだわ)


 想いに気づいた途端失恋なんて。杏梨はともすれば滲み出そうになってしまう涙を堪え、笑顔を張りつかせる。その時だ。後方にいた千奈津が自分たちに割って入って来た。


「そんなことより、美穂のことです! 知っているなら教えてください!」


 怒り心頭と言った様子の千奈津を、山我がまあまあ、と宥める。


「ちょっと落ちついて。中でお茶でも飲みましょう。このままじゃ風邪をひくわ」


 言うが早いか玄関を開き、千奈津を中へ引き入れてしまう。


「ちょっと、待ってください!」


 千奈津が騒ぐ。心配になって千奈津の後へ続くと、山我が真っ白なタオルを押しつけてきた。


「はい、タオルよ。使って。まずは身体を拭きなさい。なんだったらシャワーを浴びるといいわ」


 手際よく妹尾にもタオルを手渡す。


「ちょっと杏梨。なんか言ってやって!」


 指をさして文句を言う千奈津へ、杏梨は説得を試みる。


「でも、ここは山我さんの方が正しい気がする」

「そ、そうかもしれないけど」


 言い淀む千奈津の背中を軽く叩いて慰め、杏梨は山我へ視線を向けた。


「山我さん、お言葉に甘えて温まらせて貰ってもいいですか?」


 問いかけると、山我が満面の笑みを浮かべる。


「もちろんよ。さあ、どうぞ入って」


 柔らかな声音が、女性であるにも関わらず森宮に似ていて……。杏梨は適わないな、と一人落胆した。

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