その15
「本当のピンチにはちゃんと助けてるでしょう? それとも、他に何かあるの?」
「う、いや、別にない、ですけど」
口篭らせる森宮を、山我が余裕の笑みで見つめる。口では山我に勝てないらしい。
(けど、やっぱりとっても仲良さげ……)
付き合ってるとしか思えないほど親密な雰囲気を醸し出している。
(でも、このままじゃ、埒が明かないし)
正直言って少し風が吹くだけでも寒いのだ。杏梨は山我に嫉妬している自分を自覚しつつも、わざと明るい声で話しかけた。
「あ、あの! 前も思ったんですけど、お、お二人とも仲がいいんですね」
森宮を見遣ると、森宮が目をしばたたかせ首肯する。
「え、ああ。まあ、今一番頼りになる方なので。そもそも家族同然ですし」
「そ、そうなんですか……」
杏梨は照れたように話す森宮の表情に、鈍器で頭を殴られたかのような衝撃を受けた。わかっていたことだが、辛い。
(やっぱり二人は恋人同士なんだわ)
想いに気づいた途端失恋なんて。杏梨はともすれば滲み出そうになってしまう涙を堪え、笑顔を張りつかせる。その時だ。後方にいた千奈津が自分たちに割って入って来た。
「そんなことより、美穂のことです! 知っているなら教えてください!」
怒り心頭と言った様子の千奈津を、山我がまあまあ、と宥める。
「ちょっと落ちついて。中でお茶でも飲みましょう。このままじゃ風邪をひくわ」
言うが早いか玄関を開き、千奈津を中へ引き入れてしまう。
「ちょっと、待ってください!」
千奈津が騒ぐ。心配になって千奈津の後へ続くと、山我が真っ白なタオルを押しつけてきた。
「はい、タオルよ。使って。まずは身体を拭きなさい。なんだったらシャワーを浴びるといいわ」
手際よく妹尾にもタオルを手渡す。
「ちょっと杏梨。なんか言ってやって!」
指をさして文句を言う千奈津へ、杏梨は説得を試みる。
「でも、ここは山我さんの方が正しい気がする」
「そ、そうかもしれないけど」
言い淀む千奈津の背中を軽く叩いて慰め、杏梨は山我へ視線を向けた。
「山我さん、お言葉に甘えて温まらせて貰ってもいいですか?」
問いかけると、山我が満面の笑みを浮かべる。
「もちろんよ。さあ、どうぞ入って」
柔らかな声音が、女性であるにも関わらず森宮に似ていて……。杏梨は適わないな、と一人落胆した。




