その14
雨はすっかりあがっていた。
杏梨は森宮の後について、山を登る。洞穴から斜め真っ直ぐにあがったところに、ぽっかりとした広い空間が現れた。その中央には年季の入った木組みに、ところどころ新しく手を加え綺麗に整えられたログハウスがあった。玄関の前には、見覚えのある女性の姿もある。
「遅かったじゃない。心配したわよ」
女性は山我だった。ということは、このログハウスの家主は山我ということだろうか。
「すみません。ちょっと手間取ってしまって」
決まり悪げに微笑む森宮に山我が尋ねる。
「手間取るって何が?」
「ここに来たくない、と」
「あらまあ、そうなの」
微苦笑で答える森宮を前に、山我がくすりと笑った。
「近頃、大学三年のクラスで一気に六人の子たちが大学へ来なくなってましてね。それも皆さん音信不通になっているらしくて。そのおかげで僕が行方不明の学生たちを手にかけているとか、監禁してるとか、そんな噂が流れていまして、ね。それに、丸田さんのパーカーが例の洞穴から見つかったみたいで」
「ああ、それで」
頬を掻く森宮に、山我が首肯する。納得がいったのだろう。山我が森宮に変わって事情を話し出した。
「三人とも、あの洞穴には丸田さんもお手伝いに来てくれたことがあるの。あそこにはヒカリゴケがあってね。いいものなのよ。彼女にはそれを手伝って貰っていたの。ね、敦弘?」
親しげに名を呼ぶ山我に、胸がどくりと鳴る。杏梨は咄嗟に胸元を握り締める。その間にも、山我と森宮の親密な会話は続いた。
「達子さんがちゃんとフォローしてくれたらこんなことにはなってないと思うんですが……」
「あら、私のせい? 私はあくまで星浄大学とは直接関わりを持たないって言ってるじゃない。
私だってそこまで厚顔無恥にはなれないわよ」
情けない声をあげる森宮に、山我がそっぽを向く。
「立場があるのはわかってますけど、もう少し僕のこと気にかけてくれてもいいんじゃないかと。一応ピンチなわけですし」
頭を掻く森宮へ向き直った山我が、森宮に半眼で問いかけた。




