その12
(ち、千奈津!)
助けを求めて千奈津を見ると、千奈津が慌てて妹尾を咎めに入る。
「ちょ、ちょっと何迫り出してんのよ。そういうのはちゃんと二人の時にしなさいよ」
それ論点がズレてるよ、と杏梨は内心で千奈津へツッコむも、妹尾がますます顔を寄せてくる。
「杏梨ちゃん」
「ご、ごめんなさ……、きゃっ!」
謝ると同時に、足元にあった何かで滑り、尻餅をついた。
「だ、大丈夫?」
妹尾の焦った声が聞こえてくる。
「大丈夫。何かが足の下に。それで滑っちゃって……」
解放された右手で足を滑らせた木の根の辺りを探ると、布とビニールの間のような感触のものがあった。尻下からぐいっと引き抜いてみる。
「それ!」
手に持ったものを見た途端、千奈津の目が大きく見開かれた。
「え?」
指摘されて、杏梨は自らが持っている物を確認する。それは紫色をした薄地のパーカーだった。
「美穂のだわ! 美穂のパーカー!」
「ええ!」
杏梨は千奈津の言葉に目を剥く。
「なんでこんなところに……」
まじまじと見つめながら呟くと、千奈津が掠れた声をあげる。
「やっぱりあの森宮って先生……」
「そ……」
語尾を濁す千奈津の言おうとしていることがわかり、否定しようとした時だ。
「僕が、どうしました?」
洞穴の入口から、森宮がひょっこりと顔を出した。
「も、森宮先生!」
杏梨は驚いて咄嗟にパーカーを隠す。どうやら森宮は洞穴内の微妙な空気に気づいていないらしい。柔らかな笑みを見せてきた。




