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苔の海に溺れた人へ  作者: 朝川 椛
第三章 苔のフィールドワーク
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その4

「ここが妖怪の巣窟か」


 翌日の日曜日。

 目的地へやって来るなり、妹尾が温室を睨み据えた。杏梨は半ば呆れながら訂正する。


「だから違うってば、妹尾君。温室よ」


 だが、隣にいた千奈津が温室に向かってずいっと前へ出ていく。


「いいえ。聖っちの言う通りよ。ここが妖怪どもの巣食う場所なのよ」

「もう千奈津まで……」


 どうやら本気でそう思っているらしい。杏梨は脱力しながら温室の扉を開け、二人を招き入れた。


「失礼します! こんにちは、森宮先生!」


 声を張りあげると奥から森宮が満面の笑みで迎えてくれる。


「やあ、よく来てくれましたね。道具を用意してあるんでこっちの台まで来てくれませんか?」

「はい」


 昨日苔玉を作った長テーブルまで歩いていく。テーブルの上には三人分の探索グッズが置かれていて、ご丁寧に採取用のバッグまで用意されていた。


「すごい!」


 感嘆の声をあげると、森宮が胸を張った。


「はい。今回は三人もいらしてくれるということで、準備も念入りにしてみました」


 杏梨は森宮のどこか自慢げな表情にくすりとしながら、道具のルーペを手に取った。


「これ、どんな時に使うんですか?」

「そうですね。とりあえずその時になったら説明するつもりだったんですが、せっかくですし先にそれぞれの使い方を簡単に説明しちゃいますね」

「よろしくお願いします」


 森宮へ一礼すると、森宮がルーペを手に取る。


「まずこれ、ルーペですが、まあ、苔を観察するにはこれがないと始まりませんね」

「なるほど」


 確かにその通りだ、と杏梨は頷く。


「それからこれが採集袋、苔を入れる時に使います。それから次が皮切りナイフ。苔の根を切る時に必須ですね。それから筆記用具に、布袋、ビニール袋。それから地図ですね。低くて小ぶりとはいっても山は山ですから遅くなると危険が増します。地図には僕のスマートフォンの番号も記入しておきました。救急道具やレインコート、ペンライトなど、何かあった時のために必要なものもこの中に入れておきました。でも、皆さんきちんと長袖とパーカー、登山用のパンツに靴下、靴まできっちり登山用を着てくださったんですね」


 上から下まで確認して、森宮が満足げに微笑む。


「あ、はい。千奈津の、波田さんの案で夜にみんなで集まって買いに行ったんです」

「とても良いことだと思います」


 千奈津の「裏山だからって馬鹿にしちゃいけないわよ」との言葉に、三人とも登山ルックできめることにしたのだ。杏梨は自らの服装を確認する。ページュのパーカーの中は白いシャツである。虫が入らぬように首にタオルを巻き、パンツも焦げ茶をした防水用のものだ。靴も同じく茶色で揃えてある。まあ、すべて自分が見立てたものではなく、千奈津のコーディネートなのだが。千奈津はと言えば、パーカーはピンク、パンツと靴は黒でまとめている。ちなみに妹尾も黄緑の蛍光色をしたパーカーであり、パンツも草色である。


(完全防備って感じよね)


 苦笑しながら、杏梨は改めて森宮の服装をチェックする。黄色のパーカーに白いタオルを首に巻き、緑色の帽子を被っている。パンツは防水用のページュ色をしたものであり、靴もベージュの登山靴だった。

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