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苔の海に溺れた人へ  作者: 朝川 椛
第三章 苔のフィールドワーク
38/79

その2

   ※※※

 講義が終わり、皆が講義室を出て行く流れの中で、杏梨は教壇にいる森宮を呼びとめた。


「森宮先生、今少しお時間ありますか?」


 室内で話しかけられるとは思っていなかったのだろう。驚いたように瞬きを繰り返した後、森宮が問いかけてきた。


「質問ですか? 今日の講義わかりづらかったですか?」


 不安げに尋ねてくる森宮へ杏梨は手を左右に振る。


「あ、違うんです。あの、すみません例のお話で少しお願いがあるんですが」


 他の学生に聞かれぬよう声を低めると、森宮が小さく手を打った。


「ああ! 苔の! はい。なんでしょう?」


 途端にうきうきした様子で質問を待つ森宮へ、杏梨は頼みごとを告げる。


「あの、裏山探索の件なんですけど、友人に話したらぜひ一緒に散策したいって言われてしまって。あと二人ほどご一緒してもよろしいでしょうか」


 慎重に問うも、森宮の瞳がさらに輝いた。仲間が増えるのがとにかく嬉しいらしい。


「そうですか。いやいや、構いませんよ。それじゃあ、早速ですけど仁科さん、明日のご予定は?」


 尋ねられ、杏梨は即座に答える。


「日曜日だから一日空いてます」

「それは良かった。では明日朝十時に温室へ集合ということで。準備しておきますから、ご友人がたにも伝えておいてください」


 柔和な笑顔で応じられ、杏梨は安堵した。


「ありがとうございます。よろしくお願いします」


 丁寧にお辞儀をする。顔をあげると目を細めて微笑む森宮の顔が飛び込んできて、不覚にも胸が高鳴ってしまった。


(え? え?)


 何故突然動悸がしてしまうのだろう。


(先生から離れなきゃ)


 クリーム色をしたブラウスの胸元をぎゅっと握り締めながら、慌てて視線を逸らす。


「仁科さん?」

「では、し、失礼します!」


 杏梨は動揺を悟られぬよう、急いで廊下へ出た。

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