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苔の海に溺れた人へ  作者: 朝川 椛
第二章 手がかり
35/79

その19

「杏梨ちゃん。今からものすごく真剣な話をするから聞いて欲しいんだけど」

「何?」


 妹尾の言葉に杏梨は自分も背筋を伸ばす。


「俺さ、杏梨ちゃんのこと好きなんだわ。もう結構前から」


 突然の告白に、杏梨は目を剥いた。


「ええ!」


 素っ頓狂な声をあげると、クラスにいた学生たちが一斉に見つめてくる。

 咄嗟に愛想笑いでなんでもない、と周囲を誤魔化すと、学生たちはまたそれぞれの興味へと戻っていった。


「本気だから」


 千奈津や周りも気にせず言い切る妹尾の面には、冗談らしき様子が欠片も見つからない。杏梨は動揺する心をなんとか宥めつつ、妹尾を見た。


「あ……、うん……。ええっと、ごめんなさい」


 妹尾の気持ちに答えるわけにはいかない。即座に頭を下げると、妹尾が情けない声をあげた。


「いや、返事とかが欲しくて言ったんじゃないんだけど。もちろん冗談とかついでで言ったんじゃあないからさ。できればもう少し考えて欲しいんだけど」


 断られるとは思っていなかったのだろうか。杏梨は妹尾の気持ちを推し量れず、困惑する。だが、仮に場所を選んで告白されたのだとしても、答えが変わらない自信だけはあった。なので、杏梨は正直に己の気持ちを告げる。


「うん。考えた。だからごめんなさい。妹尾君とは友達でいたい」

「そんなこと言われてすぐに諦められるくらいならここで告白したりしないよ。だから、今杏梨ちゃんが森宮の野郎のことが気になってるのもわかってる」


 確信をつかれ、杏梨は言い淀む。


「それは……」


 言い訳しようとしたが、妹尾が言葉を制してきた。


「俺にとってはとんでもなく面白くない。しかも、相手は誘拐犯かもしれない奴だ」

「妹尾君……」

「でもどうしたって杏梨ちゃんは行くんだよな?」


 だろう、と視線で問いかけられ、杏梨は今一度頭を下げる。


「ごめん」


 引く気はない、と短な一言で宣言すると、妹尾の表情が明るいものへと一変した。


「なら、俺もついていく」

「え!」


 予想外の提案に、杏梨は目を瞠る。慌てて否定しようとするが、妹尾が引く様子はない。


「迷惑だろうと何がなんでもついていくからさ」


 宣言してくる妹尾の横で、千奈津までもが手をあげてくる。


「あたし! あたしだってついて行くわよ! 親友をまた助けられず見殺しにするなんて、あたしには耐えられない!」


 千奈津の言葉に、杏梨は眉間に皺を寄せた。


「またって、千奈津がそんなこと言うの初めてだと思うけど」


 雪菜を見殺しにしたなどと聞いたことは一度もなかった。疑問を口にすると、千奈津があのね、と

苦い表情で語り出す。


「あたしの一人目にできた親友は、馬鹿な男に引っかかってDVの果てに殺された。そいつは外面がよかったから、あたしは一切気づかなかった。でも、彼女は殺された。その時から決めたの。今度また親友と呼べるような友達ができたら、何がなんでも護り抜こうって」

「千奈津……」


 千奈津が酷く後悔しているのが声音から伝わってきて、杏梨は何も言えなくなる。


「そんな簡単に人を信じちゃダメ。雪菜のためにも杏梨にはどうあっても幸せになってもらわないと」


 手を握ってくる千奈津に、杏梨は問いかけた。

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