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苔の海に溺れた人へ  作者: 朝川 椛
第二章 手がかり
34/79

その18

「はあ?」

「へ? なんで断定してんの? まさかまた直接話したのかい?」


 杏梨は慌てて頬杖を解く。


「……あ、う、うん。ちょっと成り行きで苔玉作りに誘われたから。でも本当にちょっとの間だけだよ」


 本当はがっつり三十分はいたと思うが口にせず、いきなり躙り寄ってきた二人を宥めにかかる。だが、千奈津の怒りは留まる気配を見せなかった。


「それが奴の手なのよ! またなんか変なことに誘われたりしてないでしょうね?」

「あー……。うーんと、それが実は『苔を探しに裏山へ行きませんか』って」


 視線を明後日の方向へ逸らしながら白状すると、千奈津がまたしても机を叩いた。


「誘われたのね! あの森宮水虎に!」

「うん」

「絶対ダメ。反対です! 血を吸われちゃう!」


 周囲を気にもせず怒る千奈津を前に、杏梨は困惑する。


「吸われるって、大げさな……。反対されてももう約束しちゃったし。新しい手がかりも得られるかもしれないじゃない」


 反論すると、そもそも、と千奈津が半眼で詰問してきた。


「勝手に会いに行くなってあたし言ったよね? なのにわざわざ温室に行くなんて!」

「そんなこと言っても。どうしても怪しい人には思えないんだもの。何か隠してる気はするけど……」


 千奈津の剣幕に押されながら言い訳すると、さらに彼女の顔が硬いものへと変化していく。


「隠してることって?」


 低い声で問われ、杏梨は首を捻った。


「え? うーん、わかんないけど……」

「聖っち!」


 千奈津が突然妹尾の名を呼び、妹尾が眉を顰める。


「なんだよ、ガミガミ女」


 よほど呼ばれたくない名なのだろうか。嫌味っぽい口調で応じる妹尾を前に、千奈津がこちらを指さしてくる。


「聞き捨てならないこと言われた気がするけど今はいいわ! そんなことより、杏梨が水虎と裏山へ行くってことの方が問題だしね!」


 千奈津の発言に、妹尾の瞳の色が深くなった。


「それだけどさ。本当に本気なの? 杏梨ちゃん」

「うん……」


 責めるような口調で尋ねてくる妹尾へ、杏梨はためらいがちに首肯した。


「あの講師一番怪しいって言われてるのはわかってるんだよな?」

「うん」


 念を押すように問いかけてくる妹尾へ、杏梨は首を縦に振る。


「でも行きたい、と」

「うん」


 妹尾の問いにすべて肯定の意を表すと、妹尾がさらに訊いてきた。


「俺の答えはわかってるよね?」

「うん。反対。千奈津と一緒でしょ?」


 質問に応えると、妹尾が頷く。それから尋ねてきた。


「ああ。それでも行くんだよな?」


 ひたと見据えてくる妹尾の瞳を杏梨は真剣に見つめた。


「うん。行きたい。行ってどんな人なのか、自分の目で見極めたいの」


 すると、妹尾がおもむろに姿勢を正した。

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