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苔の海に溺れた人へ  作者: 朝川 椛
第二章 手がかり
31/79

その15

「もしもし」


 意を決して実家の継母へ連絡をする。コール一回目で出た美知子の様子に、杏梨は連絡を待たせていたことに気づいた。


『はい。どうしたの?』


 心配げな美知子の言葉に、申し訳なさが募る。


「ママ、ちょっと今話せる?」

『ええ、もちろんよ』


 美知子の柔らかい声音に安堵して、杏梨は問いかけた。


「ママ、法事に行くの?」

『行くわよ、幸也さんと引き合わせてくれたのは、絶対に亡くなった友恵さんのおかげですもの』


 美知子の言葉に、杏梨はやはり、と吐息する。


「そうだとは思うけど。また文句言われちゃうよ?」


 杏梨は心配事を口にする。だが例年通り、美知子が聞き分けてくれることはなかった。


『構わないわよ。私は今十分幸せに生きてるんだから』

「ママ……」


 美知子の意志の硬さは日本一だと思う。恐らくこれ以上粘ってみても、今年も美知子の気持ちが変わることはないだろう。その証拠にそれより、と話を転じてくる。


『あなたはどうなの? 進路は決まった?』


 美知子の問いに、杏梨は結論を告げる。


「うん。就活しようと思ってる」


 先刻決めたばかりの進路に対し、美知子が唸った。


『うーん……』


 お気に召さなかったらしい。


「なあに?」


 話を促すと、美知子が話し出す。


『杏梨が後悔しないならそれでいいんだけど。私とお父さんは大学院へ行ってみたらいいんじゃないかってね』

「でもそれじゃあ、ママたちに負担が」


 大学院へは就職した後でも行く気さえあれば行けるものだ。美知子へ説得を試みようと口を開きかけた時だ。美知子が自分より先に言葉を畳み掛けてきた。


『行きたくても行けない人もたくさんいるんだから。チャンスがあるなら掴むべきだと思うわよ?』


 美知子の言葉に、今は納得して貰えそうにないことを悟る。


「うーん、わかった。よく考えてみる」


 しかたなく話を切りあげると、美知子が追い討ちをかけてきた。


『ええ。よく考えてね。法事に行く、行かないも、その後で決めていいようにしておくから』


 これでは進学以外の結論が出しにくくなってしまう。そうは思ったが、杏梨は素直に返答する。


「はい」

『じゃあね』

「うん、またね」


 通話を切ると、手近にあったベンチに座る。


(本当に、どうしたらいいんだろう?)


 皆が幸せになる方法、それだけを考えているのに。


(上手くいかないなあ)


 杏梨はスマホをショルダーバッグの中に入れると、人目も憚らず青空へ向かって大きく伸びをした。


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