その13
「証言を取るだけなら一日あれば十分だ。それぞれウラは取らなくちゃならないがな」
「ごめんなさい。大見得切ったのに役に立てなくて」
とてつもなく申し訳なさが押し寄せてきて杏梨は素直に頭を下げると、隆行が深く吐息した。
「まったくだが、それは俺にも責任があることだしな。それより、森宮講師については何か掴んだか?」
どうやら本当に反省していると認めてくれたらしい。話を転じてくれた叔父に感謝し、杏梨は森宮について感じたことを言葉にしてみる。
「この間の話で千奈津が言ってたことだけど、裏山に暮らしてるっていう女性に会ったわ。確か山我さんって言ってた。すごく綺麗で、先生ともとても仲が良く感じたから、もしかしたら付き合ってるのかも」
並んだ感じ、山我に尻を敷かれているようにも思えたが、雰囲気は悪くなかった。
(というより、お似合いかも……)
二人のことを思い起こす。彼らだけの親しげな空気感が頭を過ぎる。
(なんだろう?)
なんとなく胸苦しい気がして、杏梨はそれ以上二人を想像することをやめた。
「事件との関係性は?」
そんなことを知らない隆行が重ねて質問してくる。杏梨は首を捻りながら話を続けた。
「関係してるかどうかわからないけど、いなくなった子たちはみんな先生のところで苔の栽培なんかをお手伝いしてたみたい。今日苔玉を教わって作ってみたんだけど近くに他の人たちの物らしき苔玉が置いてあったから」
「なるほど。親しかったのは本当なんだな」
考え込むように頭へ手を置く叔父を前に、杏梨は頷く。
「うん。目撃情報もあるくらいだからそうだとは思ってたけど」
「他には?」
尋ねられ、杏梨は言葉に詰まった。
「え? う、うーん……。そういえば、裏山の探検みたいなことに誘われたかな。苔を観察したり採取したりするのを手伝ってくれませんか、って」
なんの気なしに告げた言葉に、叔父が反応する。
「それでお前、行くことにしたのか?」
三白眼で見つめてくる隆行へ、理由がわからず首肯した。
「したよ。良くなかった?」
森宮が怪しいのだとしたら、裏山へ行くことは悪いことだとは思えないのだが。隆行の返答を待つと、しばし黙考していたらしい隆行がいや、とかぶりを振った。
「さっきも言ったが事件性は薄い。手がかりになりそうならそれもありだろ。ただ、万が一のこともあるから十分気をつけて行動しなさい。いいな」
「はい」
杏梨は軽く右手をあげて返事をする。
「それから、しつこいようで悪いが。法事、本当にお前出るのか?」
またしても両親の話を持ち出され、杏梨は盛大な溜め息を吐く。
「今のところは昨日と変わらずイエスだけど」
「でもなあ。同じ東京に暮らしているとはいえ、お前、今進路で悩んでるところだろう? 就活ならもう始めないといけないしな」
痛いところをついてくる叔父に、杏梨は素直に首を縦に振った。




