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苔の海に溺れた人へ  作者: 朝川 椛
第二章 手がかり
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その12

 自分一人では身にあまり、隆行へメッセージを送る。すぐに返信があり、杏梨は記された叔父が派遣されている清掃員の休憩場所までやってきた。


「叔父さん、今いい?」


 杏梨は隆行に問いかける。


「叔父さんはよせ、苗字を呼ぶように」


 隆行が周囲を気遣いながら、注意してくる。


「はい、浅間さん。あの……」


 杏梨は指輪のことを言おうとして、一瞬留まる。


「なんだ?」


 問いかけられ、杏梨は別のことを尋ねた。


「苗字って、本名でいいの?」

「本名じゃ何か問題があるのか? 行方知れずになった学生を捜すだけでいちいち偽名なんて使わんよ」


 肩を竦ませる叔父に、杏梨は曖昧な相槌で応える。


「そうなんだ」

「何がっかりしたような顔してんだ。ったく。それだから容疑者かもしれん人物に肩入れなんかすることになるんだよ」


 ぶっきらぼうに告げる隆行の言葉へ対し、杏梨はぎょっとする。


「なんでそのこと……!」


 半ばうろたえて目を瞠ると、隆行が小さく舌打ちした。


「そりゃいくら待っても学生たちからの証言があがってこないんだから、だいたい予想つくだろうが。姪っ子じゃなきゃクビにしてるぞ」


 苦虫を噛み潰したような表情で語る隆行へ、杏梨は咄嗟に言い訳した。


「ぜ、全然調べてないわけじゃないわよ? ちゃんと千奈津の友達には聞いたし。残りはこれからやろうと思ってたし」

「で? 調べてきたことってなんだ? 俺と被ってるんだったらゴミも同然だぞ」


 冷え冷えとした隆行を前に、杏梨は呻く。


「う……。ええっとね、まず美穂ちゃんのことなんだけど、すっごくかっこいい彼氏がいるって話があるの。元カレと別れたって聞いてから一週間後くらいに、めちゃくちゃ背の高い茶髪の男の人と歩いていたって言ってたわ。けど、千奈津によるとそれは美穂ちゃんの実の弟じゃないかって話なんだけどね」


 どうにか昨日集めた話を披露するが、叔父の表情は硬いままだった。


「その話はもう証言を取ってある。弟かどうかは未確認ではあるがな。他には?」

「ぐ……!」


 切って捨てられ、杏梨は唇を噛み締める。

 負けてなるものか、と他の行方不明者たちの話へ移行してみる。


「後の子たちもみんな色々あったらしくてね。それぞれ問題があったみたい。一人目の吉沢茜さんは妊娠してた、とか。二人目の田渕明弥君はバイト先に今カノの他に気になってる子ができて悩んでたとか」


 すると、叔父が言葉を遮り、面白くもなさそうに話を引き継ぎ出した。


「三人目の池内咲人は映画監督になりたくて進路に迷ってた、四人目の藤箕乙音は義理の父親との関係性に悩んでいた。五人目の日番谷優奈は母親との確執に悩んでいた」


 ぐうの音も出ず、杏梨は完敗を認める。


「本当に、もう全部知ってるんだ」


 叔父の仕事の早さに感動さえして応じると、乾いた声音が耳へ届いた。

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