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苔の海に溺れた人へ  作者: 朝川 椛
第二章 手がかり
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その7

(つくづくお父さんはいい人を見つけたよね)


 生母を亡くした後、男手一つで自分を育ててくれていた父が、自分が四歳の時につれて行って貰っていた読み聞かせサークル。そこで出逢ったのが継母だ。


(本当に、出逢った時からいい人だったもんなあ……)


 美知子の笑顔を思い出し浸っていると、ふいに斉木が手を打った。


「待って。これ関係ないかもしれないんだけど、最近いなくなった美穂がさ」


 いきなりがばっと姿勢を戻し、身を乗り出してくる。驚いている間に、千奈津が、え、と勢いよく斉木へ寄って行った。


「美穂を見かけたの?」


 躙り寄るように問いかける千奈津に対し、今度は斉木が視線を上向ける。


「うーんと、いなくなる前のことなんだけど。茶髪で、背がめちゃくちゃ高くて守ってあげたくなるような童顔の男子と歩いてたよ。高間と別れたのってその子が原因かなあ、って」


 すると、何故か千奈津が脱力した。急にどうしたのだろう。答えが欲しくて千奈津を見遣ると、ああ、と千奈津が口を開く。


「それは違うよ。多分その子は美穂の弟君だよ」


 千奈津の言葉に、斉木が瞠目する。


「ええ? でも、それにしては変だったよ?」


 斉木の発言に、千奈津が目をしばたたかせた。


「どういうこと?」

「だって肩組んで歩いてたもん」


 斉木の言葉に対し、またしても千奈津が肩を落とす。


「あの姉弟仲良いのよ。すっごく」

「そんなもんかなあ……。絶対新しい彼氏だと思ってたんだけど……さっき高間に話したらショック受けてたみたいだし」


 斉木の話を聞き、千奈津が斉木の座っている真下の席へ座り、頬杖をついた。


「高間は弟君と直接会ったことなかったみたいだからさぁ」


 千奈津の言葉に、斉木もがっかりした口調で呟いた。


「そうなんだぁ」


 深々と首を上下させていた千奈津が、ふいに視線を向けてきた。


「こんな感じで参考になる? 杏梨」


 千奈津の問いに、杏梨は口元を綻ばせた。


「うん。なると思うよ。弟君かどうかはそのうち確かめないといけないだろうけど。とりあえず報告してみるよ」


 正直に答えると、それに満足したのか千奈津が跳ねるように席を立ち、二人を振り返る。


「二人とも忙しいとこ本当にありがとうね」


 嬉しげに微笑む千奈津に倣い、杏梨は笑みとともに軽く会釈する。


「ありがとうございました」


 すると、斉木も釣られたように笑みを返してくれた。


「いいよ、気にしないで」


 隣にいる富田へ、ね、と斉木が視線を向ける。富田が斉木の瞳を受けて、深く頷いた。


「俺たちもみんなが見つかって欲しいからさ」


 真面目な口調で語られ、杏梨は今一度心の姿勢を正した。


「頑張ります」


 首肯しつつ告げると、富田と斉木がありがとう、と異口同音で返答してきた。

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