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苔の海に溺れた人へ  作者: 朝川 椛
第二章 手がかり
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その6

「じゃあ、やっぱり文化系サークルなんだ」

「はい。文芸サークルです」


 素直に首肯すると、富田が若干胸を反らしてきた。


「文化系サークルみたいなあんまり活動してないところは小さい部屋が多くて古い建物に分類されてるって聞いたよ」


 どこか自慢げな口調に、杏梨はぐっと言葉を詰まらせる。確かにコピー誌も碌に作ったことがないサークルではあるが、活動していないわけではない。まあ、フィールドワークと称して旅行へ行っては食べ歩きしているような活動に対して、不満がないかと言えば嘘になるが。


(ブラスバンドだって一応は文化系サークルじゃない!)


 唇を軽く噛み、杏梨は怒りを堪える。


「な、なるほど……。まあ、それはともかく、いなくなった子と森宮先生との関係で知ってることとかないですか?」


 気を取り直して問いかけると、富田がまた天井を見あげた。


「んー、そういえば、映画監督になりたいってヤツ、池内咲人いけうちさきとってのと、声優になりたいとか言ってる日番谷優奈ひつがやゆうなってヤツがなんか草のプランター持って森宮と談笑してたのを見たかも」


 曖昧な記憶を手繰るように話す富田がふいに視線を向けてくる。


「いつも陰気な顔して講義受けてるのに、あん時は笑ってたなあってのがすげー頭に残ってるよ」


 真剣な面で言葉を紡がれ、杏梨は知らず姿勢を正す。もう少し詳しく聞いてみたい。改めて口を開きかけた時だ。富田の隣に座した斉木という女性が小さく手をあげた。


「それ、わたしもだわ」

「え?」


 驚いて斉木を見遣ると、斉木が人差し指を左右に振りながら話を始める。


「わたしはほら、妊娠しちゃったって噂が立ってさ、本人が産みたいって言ってて。みんなで出産費用をカンパするとかそういうことが問題になったコいたじゃない? 吉沢茜よしざわあかねってコ。あの子が森宮先生といたのを見たよ。やっぱり楽しそうだった」


 ここにきて、また森宮の名が出てきて、杏梨は顎に指をあてる。


「そうなんですか……」


 頭をフル回転させつつ呟くと、斉木が話を補足してくる。


「うん。その時はその子ナイフ持ってた気がする。何に使ってるかはわかんなかったけど」


 斉木が口を閉ざすと、しばし沈黙が降りる。

 やはり、犯人かどうかは別として、森宮がキーマンとなっているのは確かなようだ。杏梨は黙考しつつ、言葉を紡ぐ。


「そうなんですね。――その他の子のことで知ってることありますか?」


 尋ねると、斉木が首をかたむける。


「んーとね。これは実際に見たわけじゃないけど、藤箕乙音ふじみのおとねってコと田渕明弥たぶちあきやってコがやっぱり森宮先生と丸い苔を持って談笑してるのを見たって聞いたかなあ」

「なるほど……」


 今までの話の展開からすると、行方不明者は皆何かに酷く悩んでいた節がある。


(ってことは、やっぱりただの家出ってことも考えられるんだけど……)


 森宮が犯人とは思えない以上、むしろ家出であって欲しいとさえ思ってしまう。


(いけない、いけない)


 杏梨は内心で頭に拳をあてる。先入観は一番の敵だと叔父が話してくれていたのを思い出し、杏梨は深呼吸する。それから改めて問いかけた。


「その子たちはみんな何かに悩んでたんですか?」

「んー噂だけど、藤箕さんは義理の父親から暴力を受けてたらしいよ。何度も逃げようとしたけど、その度に見つかって連れ戻されちゃうんだってさ。わたしも痣とか何度も見たことがあるから本当なのかもって思う。田淵君は恋煩いらしいよ。ちゃんと彼女いたのにさ。なんか船で旅行行く団体があるじゃない? あそこで事務のバイトしながらその旅行に参加してたらしいんだけどさ。そこで出逢っちゃったんだって。運命の女性ってヤツに。でも全然相手にしてもらえなかったらしくてさ。彼女とも別れちゃったし。それで落ち込んでたって聞いた」

「そうだったんですね」


 田淵の話はありがちだが、藤箕の話は他人事ひとごととは思えなかった。自分の場合は義母がとてつもなくいい人だっただけで、一つ間違えれば同じようなことになっていたかもしれないのだ。

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