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苔の海に溺れた人へ  作者: 朝川 椛
第二章 手がかり
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その4

 そのまま反論する間もなく、スケッチブックを片手にサークル室を駆け出てしまう。


「あ、高間君!」

「高間!」


 呼びとめるが、当然のことながら留まることはない。高間が走り去ってしまった廊下を眺めながら、千奈津が吐息した。


「あー行っちゃった。ちょっと言い過ぎちゃったかな?」


 呟く千奈津を、杏梨は半眼で見つめる。


「千奈津、わざと怒らせてたでしょ?」


 軽く咎めると、千奈津が舌を出した。


「あ、わかった?」

「元カレにそんなことしても意味ないんじゃない?」


 悪びれない千奈津に、杏梨は問いかける。んー、と千奈津が斜め上を見あげた。


「でもさ。美穂ってかなり彼のこと本気だったからさ。意趣返しくらいしたいじゃない? 万が一、雪菜みたいになっちゃっても困るし」


 千奈津の言葉に、杏梨は瞳を瞬く。


「雪菜って前から言ってる千奈津の親友だよね?」

「うん。そう」


 苦笑う千奈津の目が悲しげに揺れる。杏梨はこれ以上雪菜という人物について追求することをやめた。何があったか気にならないわけではない。だが、訊かれたくないことを無理に話して貰いたいわけでもなかった。


(私だって、お母さんとママのこと訊かれたりしても困るもんね)


 杏梨は顔をあげ、わざと明るい声で千奈津を茶化す。


「……そっか。千奈津は熱い女なんだねぇ」


 こちらの気遣いを受け取ったのだろう。千奈津がくすりと笑んだ。


「そういうこと。さ、高間に発破もかけたし、次に行こうか?」


 廊下の奥を親指で指し示す千奈津に、杏梨はきょとんとする。


「次って?」


 問うと、千奈津がにんまりとした。


「ほら、例の山へ水虎が青いビニールを持って行くのを見たってコ。そのコと、あと水虎と仲良さげに話してるコを見たってコが講義室で待ってるからさ」


 杏梨は千奈津の準備の良さに舌を巻く。


「了解。根回し恐れ入ります」


 おどけてお辞儀をしてみせると、千奈津が力こぶを作ってみせた。


「事件解決のためだからねぇ。頑張らないと」


 その表情は思ったよりも真面目なもので……。杏梨は千奈津の抱えているものが想像以上に重いものであることを窺い知ることができた。

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