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苔の海に溺れた人へ  作者: 朝川 椛
第二章 手がかり
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その2

「学生行方不明事件の犯人に単独で対決しに行っちゃった無謀な子を叱ってただけよ」

「だから、危なくなかったってば」


 杏梨は間髪入れずに反論する。だが、告げた途端に千奈津の表情が硬いものに変わった。


「杏梨。悪い人が悪人面してるわけじゃないのよ。人畜無害そうな人間の方が危ない場合が多いんだから」


 両の腕を掴んで来て、千奈津が視線を外さず言い含めてくる。でも、と声をあげようとするも、それより先に妹尾が口を挟んできた。


「それは一理あるよ、杏梨ちゃん」


 椅子に座り、斜めから顔を寄せてくる妹尾に、千奈津が苦い顔をする。


「自分だって十分馴れ馴れしいじゃない」


 顰め面で妹尾を睨む千奈津に、今度は妹尾が肩を竦めた。


「お前よりずっとマシだろ。事実杏梨ちゃんは可愛いわけだし」


 可愛い、と称されても状況的にあまり嬉しくない。杏梨はなんとなく寒気がして小さく身震いする。だが、そんな自分を無視して千奈津がすぐさま言い返した。


「お前呼ばわりは失礼でしょうが」


 鼻息を荒くする千奈津に、妹尾が手を前後させる。


「お前と議論してる暇なんかねぇんだよ。問題は杏梨ちゃんが悪い男に引っかからないようにするのが先決だろ?」


 妹尾の言葉に、杏梨は我慢の限界を感じた。千奈津の手から逃れ、杏梨は二人を見据える。


「妹尾君まで。大丈夫だってば。そもそも森宮先生は大学講師よ? 講義聴いてても竜宮伝説についての考察はすごいなって思うし。なんでか知らないけど苔とか藻にも詳しいの」


 そんな人が人を攫ったり閉じ込めたりするはずがないではないか。考えを口にするも、何故か千奈津が半眼になった。


「杏梨。まさかあんた森宮講師に恋したとかじゃないわよね」


 断定調で尋ねられ、杏梨は頬を上気させる。そんなわけがないではないか。慌てて返答しようとして、またしても妹尾に遮られる。


「なんだって! それは問題だ。もう杏梨ちゃんはその怪しい講師には会わない方がいいな」


 手を握らんばかりに詰め寄ってくる妹尾から身を仰け反らせ、杏梨は千奈津へ文句を言う。


「そんな恋なんて……。それに会わないってわけにもいかないわよ。有力な手掛かりってことでもあるんだから」


 落ちついてよ、と千奈津へ訴えかけるも、千奈津の表情がますます厳しいものになってしまう。


「そんな悠長なこと言って、殺されてからじゃ何もかも遅いのよ?」

「物騒なこと言わないでよ。そもそもこの話持ってきたの千奈津じゃない」


 あまりに不吉な物言いに腹が立ち千奈津を責めると、千奈津がぐっと言葉を詰まらせた。


「そりゃそうなんだけど……」


 語尾を濁らせつつ不服げに唇を尖らせる千奈津へ、妹尾が提案した。


「なら、今度会いに行く時は俺がついていくよ。それなら問題ないだろう?」


 妹尾の言葉へ、いい考えだと言わんばかりに千奈津が手を打つ。


「え? でも……」


 嫌だ、とは言い切れず言い淀むと、妹尾が自身の胸を叩いた。


「俺たちが一緒にいれば、めったなことしてこないと思うからさ」

「そうね。聖っちにしてはいいアイデアだわ。杏梨いいわね! 絶対二人きりで会っちゃダメよ!」


 千奈津と妹尾の両方から迫られ、杏梨は唇を引き攣らせる。


「……う、うん……」


 勢いで頷きはしたが、頭の中はこの場を収める方法をフルスピードで模索していた。

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