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苔の海に溺れた人へ  作者: 朝川 椛
第一章 きっかけは亀
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その16

「……一応は」


 本当はまだきちんと話し合ってはいないのだが。しかたなく苦し紛れに返答する。


『結論は?』

「まだ出てない」


 言葉短に問われ重ねて答えると、なら、とさらに追い打ちをかけられた。


『法事の方は?』


 そこもまだ話し合っていないので結論づけたくはないのだが。そんな思いを込めて叔父に伺いをたてる。


「参加にしておいてくれない? ママは極力私が護ってあげたいの」


 理由を口にすると、隆行のぼやきが聞こえてきた。


『もういいと思うんだがなあ』


 叔父の言葉にかちんときた杏梨は、反論する。


「ねえ、叔父さん。私が自分の生みの母親の法事へ行くのに、お母さんの弟がとめるのって変じゃない?」


 すると、隆行も怒ったような口調で切り返してきた。


『そりゃ一般的にはそうだが。お前の場合、目的が違うだろう?』


 叔父の問いかけに、杏梨は頬を膨らませる。


「違うかもしれないけど。でも一応普通のことじゃない」


 くぐもった声で返答すると、隆行の声音が和らいだ。


『なあ、杏梨。「世間一般の普通」にこだわらなくても、幸せになる方法はいくらでもあるんだぞ?』


 諭すような口調の隆行に、杏梨はむっとする。だが、反抗しようとしてできないことに気づいた。


「それは! ……そうだけど……」


 叔父の意見の方が正論だ。だが、納得はできず言葉を濁す。そのまま沈黙していると、再び叔父の溜め息が耳へ届けられた。


『とにかく、ゼミのフィールドワークに参加するか、法事に参加するか。もう少し考えてから決めなさい。わかったな』


 隆行の言葉に杏梨は了解の意を告げる。


「わかってる。じゃあね」

『ああ』


 通話を切ると、辺りを見回す。時刻を見るとまだ昼休みに入る三十分前だった。噴水の水音と木々のざわめきだけがやけに耳にこだまする。


(なんでだろう)


 胸が痛い。杏梨はシャツの胸元をぐっと掴み、胸苦しさを堪えた。


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